私は母国でロズワール様と遭遇してしまいます

 私達は隣国にたどり着きました。エル王子とレオ王子からすれば隣国ですが、私からすれば母国です。


「国王との面会は翌日だ。今日は宿を取ってある。夜になるまで時間を潰そうか」


「アイリス、遊びに行こうぜ!」


 レオ王子は無邪気な笑みを浮かべてきます。まるで少年のようです。


「レオ、何を言っているんだ。今、俺達は外交に来ているんだぞ」


「それはわかってるけどよ。兄貴、焦っても状況は何も変わらないんじゃないか?」


「確かにそれはそうだ。アイリスはどうしたい?」


「母国の様子をもっと見て回りたいです。しばらく帰っていなかったものですから。状況がどうなっているのかどうか」


「わかった。じゃあ、しばらく三人で見て回ろうか」


「ちぇっ。兄貴も一緒かよ」


 レオ王子は舌打ちします。


「何か不満か? レオ」


「別にー」

 

 言葉ではそういいつつも、レオ王子は明らかにすねた様子でした。


「くすすっ」


 少年らしい態度が微笑ましく、私は思わず笑ってしまいます。


「なんだ? アイリス、何が楽しいんだ?」


「なんでもありません」


 私は否定しますが、笑みを堪えきれませんでした。


「それにお二人に案内もしたいんです。私の母国を」


「ああ。そうだな。頼むよ、アイリス」


「俺もアイリスが生まれ育った故郷を見てみたいぜ!」


「はい! 是非案内させてください!」


 こうして私はエル王子とレオ王子を案内して回る事になるのです。しかしこの後、私は思わぬ人物と再会を果たす事になるのです。


 ◇


 街中には明らかに浮浪者が増えていた印象でした。


「なんだ、この国は……言っちゃ悪いが、随分と浮浪者が多いな。まるでスラム街だ」


「伝染病の影響で失職者が増えているらしい。それで仕事も減って、路上生活をする人も増えているそうだ」


「へー。じゃあ、アイリス。前からこうだったわけじゃないんだな?」


「はい。エル王子のいう通りです。前はここまで多くはありませんでした。路上生活者は前より目に見えて増えています」


 私は変わり果てた母国の惨状を思わず嘆きます。


 ――その時でした。それはレストランの近くを通りがかった時です。残飯を漁っている一人の浮浪者がいました。


「また荒らしやがって! この職なしの浮浪者が! あっちいきやがれ!」


「くっ!」


 レストランの料理人(シェフ)が残飯を漁っていた浮浪者を蹴とばします。その男の人は尻餅をつきました。


「へっ! 二度と来るんじゃねぇぞ! 金のねぇ奴は客じゃねぇんだからなっ!」


 シェフはレストランに戻っていきます。


「大丈夫ですか?」


 私は歩み寄ります。


「おい、アイリス。そんな汚いおっさん放っておけって。優しすぎるにも程があるぜ」


「え? 嘘!? なんで!?」


 私はその男の人を見て、思わず驚いてしまいます。信じられない事が起きたのです。


 その男の人はロズワール様だったのです。私の元婚約者の。信じられるはずもありませんでした。

 なぜ名家の嫡男であるロズワール様がレストランの残飯など漁っているのでしょうか。


 確かに汚らしい服装にはなり、髪もボロボロで何日も入浴していない様子でしたが、その顔立ちはまさしくロズワール様のものでした。


「な、なんでロズワール様が!」


「ア、アイリスか……」


 ロズワール様も私との遭遇を驚いたのか、目を丸くします。


「ん? なんだ? アイリス? 知り合いか?」


「ええ……知り合いです」


 まさかあの元婚約者であるロズワール様と再会するとは思ってもみなかったので、私は大変驚いてしまいました。


 こうして私達は思ってもいない、偶然の再会を果たすのです。



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