私はショックのあまり寝込んでしまいます

なんという事でしょうか。


まさかディアンナとあのような形で再会するとは思ってもいなかった事です。


しかもディアンナが私に毒を盛って殺害を企てようとした事などとてもではありませんが、想像すらしていませんでした。


私は精神的ショックのあまり、部屋で寝込んでしまいました。風邪もひいてしまったかもしれません。


病は気から。やはり気分が落ち込むと風邪をひきやすくなってしまうような気がします。


その日から私はしばらく仕事をお休みさせて頂く事になりました。薬を作らなければならないという義務感はあります。


やはり大勢の人々が未だ病に苦しんでいるのですから。


しかし国王様も王妃様も休んだ方がいいと言ってくれます。


「アイリス様……あーん」


「あーん」


 ヴィンセントさんがその日から看病をしてくれます。そして「あーん」で食事を食べさせてくれました。


「ヴィンセントさん」


「なんですか? アイリス様」


「子供みたいで恥ずかしいです」


「アイリス様も私にそうしてくれたではありませんか?」


 それを言われると見も蓋もない事です。精神的なショックは薬でも簡単には癒せません。やはり心が回復するまで時間が必要でした。


 あのまま食事を食べていたら、エル王子が気付いてくれなければ私はそのまま死んでいた事でしょう。


実に恐ろしい事でした。


「それを言われるとその通りですね。私もそのようにして看病をしていました」


「はい。ですから、あーん」


「あーん」


 恥ずかしい。子供みたいです。私もしていたのですから言い返せません。


 こうして私はヴィンセントさんに看病して貰っていました。


 その時でした。エル王子とレオ王子の二人がお見舞いに来たのです。


「エル王子、レオ王子」


「アイリス! 大丈夫か!?」

 

 レオ王子が心配そうに聞いてきます。


「だ、大丈夫です。多分」


「無理はしないでくれ、アイリス。あんな事があったのだから無理もない。今は休養をとって、それから人々の為に薬を作ってくれればいいさ」


「はい……ありがとうございます。ですが義妹――ディアンナがあんな事をしてくるなんて夢にも思っていなかったものですから。びっくりしてしまって」


「気にするな。アイリス。どう考えても悪いのはあの義妹の方だ。あいつは恵まれているアイリスの事を逆恨みしたんだ。あろう事か毒を盛って殺そうとした、最低な奴だぜ」


 レオ王子はそう言ってきます。


「レオのいう通りだ。アイリス。君に非はない。だが世の中には幸せそうにしているというだけで恨みをもつ狭量な人間が存在する事は事実だ。義妹のディアンナのような存在がそうだ。だけどアイリス、君に落ち度は一切ない。そういう狭量な人間が世の中にいるっていうのが問題なんだ」


「エル王子」


「だが、覚えていて欲しい。そういう人間はいなくはならないんだ。世の中には自分を不幸だと感じていて、幸福な人間を許せないという人間。幸福な立場だと思われている人間も決して幸福なだけじゃない。それなりの苦労や葛藤があるのに、彼等のような人間はその事を忘れているんだ」


「本当だぜ。俺や兄貴だってそれなりに苦労している。立場の分嫌な事だってあるんだ。アイリスだってそうだろ? 今回の事だってそうだ。そういう立場であるからこそやっかみを受けた。そのやっかみが極限までエスカレートした故の悲劇だったんだぜ」


 レオ王子はそう言ってきます。


 そう、私に非はないのです。ただやはりそういう物事が起こる事はどうしても避けられようもない事でもあるのです。やはりどんな恵まれた境遇にいると思われても悩みやトラブルは起こるものです。


 今回のケースがまさしくそうでした。


 そんな事をしているうちの出来事でした。


「エル王子、レオ王子」


「ん? なんだ?」


 二人の王子が他の使用人に呼び出されました。


「どうしたんだ?」


「お客様のようです。それがどうも、帝国からの使者のようで」


「て、帝国から?」


「わかった。すぐに向かおう」


「はい。お待ちしております。接客室でお相手方がお待ちとの事です。国王様も王妃様もいらっしゃいます」


 エル王子とレオ王子が向かっていきました。帝国ビスマルク。聞いた事があります。多くの兵士を持つ軍事大国だと聞いております。強力な軍事力を持っているという噂です。


 なにやら不穏な空気が漂ってきました。只ならぬ空気。


 静養をしなければならないのはわかっておりますが、私の心は一向に休まらないのでした。


 嵐の予感がします。そしてその予感は現実になってくるのです。

 

 ディアンナの凶行が可愛く見えてくる程に。

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