義理の妹に毒を盛られてしまいます
それはいつも通りの食事風景のはずでした。
エル王子、それからレオ王子。国王と王妃。そして私。テーブルにはいつもの五人がいます。
それは夕食時の事でした。いつも通りに食事が運ばれてきます。当然のように使用人たちが運んでくるのです。
そう、私の食事を運んできたのはディアンナでした。これは偶然でしょうか。前に取り乱したディアンナを見た私は少し不安でしたが、それでもまさか何かしてくるとは思いませんでした。
ディアンナは嘘つきな義妹ではありましたが、そこまでの事はするはずがない。なんとなく私は呑気に考えていたのです。
ですがエル王子は違いました。
「待ってくれないか、ディアンナ君」
「は、はい。なんでございましょうか? エル王子」
「まだ仕事が残っているんだ」
「し、仕事? 配膳は済んだはずですが」
「毒味も使用人の仕事だよ。やってはくれないか?」
「な、何をおっしゃいましょうか。食事は全て運んでくるより前に毒味済みであります。なぜ、そんな事をおっしゃるのですか?」
エル王子は冷たい目線で告げる。何かを察しているような顔だ。
「だから、ここに運んでくる途中に誰かが毒を盛った可能性があるだろう?」
「くっ!」
ディアンナは悔しそうな顔になりました。レオ王子も何かを察したようです。
「アイリス、貸せ」
「レオ王子」
レオ王子は私の食事を持って、水槽の前に立ちました。水槽では無数の観賞魚がいたのです。レオ王子は水槽に食事を投げ込みました。
するとどうでしょうか。その魚たちはぷくぷくと水面に浮きあがり、動かなくなったのです。
どうやら絶命してしまったようです。これはどういう事でしょうか? 答えはひとつしかありません。私の食事に毒が盛られていたようです。
「やっぱり……こいつ、毒を盛りやがった」
「わ、私ではありませんわ! 私では!」
レオ王子はディアンナに掴みかかります。
「お前以外に誰がいるっていうんだよ! 毒味しろって言われた時お前しなかったよな!? お前は食事に毒が入っているって知ってたんだ! 何で知ってたか!? 答えはひとつしかねーだろ。お前がアイリスの食事に毒を盛ったからだ!」
「違いますわ! 私ではありませんわ! ち、違いますの!」
「てめぇ! いつまでも見苦しい言い訳言ってるんじゃねぇ!」
「レオ、よせ」
「兄貴」
殴り掛かろうとしたレオをエルは制止しました。
「けどなぜアイリスに毒を盛る必要性があった……彼女は国賓で多くの人々が彼女の薬を欲している。殺害を企てる動機はないはずだ」
「それが実はディアンナは私にとって義理の妹なんです」
私は真実を語ります。もはや隠す事はできないでしょう。
「「義理の妹!?」」
「はい。義理の妹です。私はディアンナに毒薬を作っている、食事に毒を盛られたと嘘をつかれて実家を追い出されているのです。そこからどうも実家に不幸な出来事が立て続けに起きて、それでどうやらディアンナはメイドとしてここで働かざるを得なかったようです」
「へっ。そういうわけか。それでこいつはアイリスを逆恨みしたってわけだな。動機まで十分じゃねぇか。姉貴が幸せそうなのが許せなかったって事だろ」
「わ、私ではありませんっ! 私ではっ!」
「だから! いつまで見苦しい言い訳続けているつもりだてめぇは! そんなしらじらしい嘘で今更言い逃れできると思うなよ!」
「くっ……うう」
「兄貴、どうするんだよこの女」
「国賓であるアイリスを殺害しようとした罪は重い。それなりの重罰に課すべきだろう」
「そうだな……」
王国には司法制度がありました。そして警察組織のような治安維持組織も。恐らくはディアンナは拘留され、裁判にかけられる事になるでしょう。
「ま、待ってください。ディアンナは私にとって義理の妹です。どうか寛大な処置を」
「アイリス! お前殺されかけたんだぞっ! 義理の妹だからってよく庇えるなっ! お人よしすぎるぜ!」
「ともかく、これだけの事をしでかしたのだから彼女が宮廷で働き続けるのは無理だ。アイリスの寛大な心に免じて、そうだな。国外への追放処分としようか」
エル王子は告げます。こうして義妹ディアンナは服毒をした罪で国外への追放処分となったのです。
事情を説明された使用人数人により、ディアンナは城の外へ連行されます。最後にディアンナが物凄い剣幕で私を見るのです。もう完全に服毒した事を認めているようでした。
「呪われろっ! この根暗女っ! 私と同じように全てを失えばいいんですわっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ! くたばればいいんですわっ! お前達もどうせ私の手に入らないなら、戦争でも起きて皆のたれ死ねっ! 滅びろっ! 滅びろっ! この王国も滅びろっ!」
ディアンナは思いつく限りの罵詈雑言をなげつけてきます。何と醜い言葉、そして表情でしょうか。とてもかつてのギルバルト家の令嬢とは思えませんでした。
それほどまでに憎悪の感情とは人から品性や余裕を奪い取るものなのでしょうか。
「お、おいっ! こいつ黙らせろ」
「あ、ああ。口に布でも巻き付けろ!」
「んんっ! んんっ!」
こうしてディアンナは国外への追放処分となりました。
その日の食事は最高においしくない、最悪の食事会となってしまったのです。ディアンナの凶行ひとつによってです。
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