【義妹SIDE】初めての給料で闇商人から毒薬を買う

 その日、ディアンナ達メイドは給料日であった。


「はい。お給料ですよ」


「ありがとうございます!」


 メイド長から賃金を手渡しされる。


「はい。どうぞ」


「ありがとうございますですわ」


 ディアンナは給料をもらった。離れて賃金を確認する。銀貨が9枚銅貨が10枚。


大体価値としては金貨1枚と同等だ。


金貨1枚=銀貨10枚=銅貨100枚。その程度の貨幣価値だと考えて貰えれば差し支えない。


この賃金自体は別段低くはない。金貨1枚あれば一般家庭が一か月生活していくのに十分な金額だからだ。その上に、衣食住は保証されている。決して待遇は悪くない。しかし、令嬢として今まで何不自由のない生活をしてきたディアンナには大層不満であった。


 さらにはその不満に、義姉であるアイリスがお姫様のような生活をし、王子達と気軽に接しているという事が拍車をかける。


 噂では求婚までされているらしい。ディアンナの不満が頂点に達し、さらにはアイリスに対する殺意まで抱くのには決して不足のない動機であった。


 ディアンナは給料日までの休日のうちに城下町を練り歩いていた。少々危険ではあるがスラム街と呼ばれるような、治安の悪い場所へも出向いた。


 そこには闇商人と言われるような、非合法なドラッグを売っている商人がいる事も確認した。


 給料をもらったディアンナは休みを貰い、その闇商人のところまで出向いたのだ。


 ◇


 スラム街。そこは貧困層の集まる街だ。犯罪率が異様な程高く、そして犯罪の温床にもなっている。違法なドラッグ。危険な武器。売春も多く、殺人事件も絶えない。

 王国の負の側面が集まっているような街である。


 本当はこんなところ足も踏み入れたくないのだが、それでもディアンナはアイリスに対する負の感情が大きく。止め留が効かなくなってしまっていた。


「へへっ。嬢ちゃんじゃねぇか。久しぶりだな」


 ボロボロの服を着た老人。今まで生活してきた中では決して接するようなことがなかった、下流の人間。そんな人間がディアンナの目の前にはいた。

 彼が闇商人である。様々なドラッグ。麻薬などを取り扱う商人だ。ただ使用して気持ちよくなる、無論強烈な副作用を伴うが――そんなドラッグを扱っているだけではない。

 致死性の毒薬も彼は扱っていた。


「ええ。久しぶりですわね。以前お尋ねした商品はまだ残ってますの?」


「ああ。残ってるぜ。こいつだろ?」


 そう言って闇商人は小瓶を取り出した。紫色の液体が入っている。


「おいくらですの?」


「金貨1枚だ。初回だからサービスしておくぜ。くっくっく」


 月の給料分だ。何も残らなくなる。だがどうせ金などあまり必要ない。メイドとして宮廷から衣食住は保証されているのだ。

 それにもうメイドとして今後とも働くつもりは毛頭なかったのだ。計画を実行した末に自分は宮廷から姿を消すつもりであった。


 その後の生活の事は考えてない。計画を実行する事しか頭になかった。恐らくは娼婦や売春婦に身を落とすくらいしかないかもしれない。


 だがそれでもいいと思ってしまえるくらい、ディアンナの負の感情は高まっていた。

 それほどまでに嫉妬の炎。嫉妬のエネルギーとは凄まじいものがあるのだ。


「この袋にその分は入ってますわ」


 ディアンナは闇商人に小包を渡す。


「へへっ。どうも。確かに。じゃあ、この毒薬をあげるぜ」


「ありがとうございますわ」


 ディアンナは毒薬を受け取った。誰にどう使用するつもりなのか。言うまでもないだろう。


 くっくっく。見ていてくださいませ。お姉様。いや、あの根暗女。全てを失い私がメイドとしてあくせく働いている中、自分だけのうのうと生活して、あんな素敵な王子達に求婚されてるなんて。

絶対。ぜーーーーーったい許せない。許せませんわ!

 

 ディアンナは恐ろしい表情でそう考えていた。


 こうして毒薬を盛られたと嘘をついてアイリスを追い出したディアンナが。アイリスに実際に毒を盛ろうとするという。


 なんとも皮肉な展開を迎えるのであった。

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