私は義理の妹と再会してしまいます
それは私が歩いていた時の事です。
「え?」
私は見間違いかと思いました。廊下にはメイド服を着た、ディアンナによく似た少女がいたのです。
見間違いではありませんでした。似ているのではありません。本人なのです。で、でもどうして? 私は思いました。
ギルバルト家で今なお令嬢をしているはずのディアンナがなぜメイドとして奉仕をしているのか。とてもではありませんが理解が追い付いてきませんでした。
「あら、噂に名高い薬師のアイリス様ではありませんか。ご機嫌うるわしゅうございますわ」
「ど、どうして。どうしてディアンナがここにいるの? や、屋敷でお母さんやお父さんと生活しているんじゃないの?」
「私たちは例の流行り病にかかったんですの。そしてそれでアイリス様の薬を買う為に屋敷を売り払ったんですのよ。それでお父様とお母様は離婚。極貧生活を強いられた私達母子。仕方なく、お母様は私を働かせる事にしたんですのよ。おわかりですか?」
「そ……そう、私。知らなかったわ」
「知らなかった? 呑気なものですわね。確かにあなたを追い出したのは私達の方ですけど、いくらなんでもあんまりじゃないですのっ! 私は令嬢としての身分も追われ、婚約者であったロズワール様とも婚約解消されて、その上でさらに。なぜわたくしが働かなければならないのですのっ! 嫌ですわもう!」
「ディアンナ……」
「ねぇ……お姉さま、立場を代わってはくれませんか?」
「え? 立場? 何を言っているの?」
「こんな生活嫌ですわっ! 私、エル王子やレオ王子のような、美しく、才覚に溢れた、社会的地位の高い殿方と結婚して、お姫様になって。優雅な生活をしたいんですのっ! こんなメイドとして馬車馬のように働いて! 毎日朝早く起きて、夜遅くなるまで働く生活、もうまっぴらごめんですわっ! いやですわっ! いやなんですのっ!」
「そ、そんな事言われても」
「代わってくださいませ! 代わってくださいませ! 代わってくださいませ!」
私の肩を掴み、ディアンナはゆすってきた。顔が怖い。目が血走っているのです。
「い、いや……ディアンナ、こ、怖いよ。それに肩、痛いです」
「代わってくださいませ! 代わってくださいませ! 代わってください! 代わってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
ディアンナの様子は壊れた人形のようでした。怖いです。異様でした。
「む、無理だよ、ディアンナ。だってディアンナには薬は作れない。薬師にはなれないもの。私にはどうしてあげる事も、代わるのなんて無理だよ」
「はぁ……はぁ……はぁ。わかりましたわ、アイリス様。無理な申し出をして申し訳ありません。ただアイリス様が超絶に幸せそうな生活をしていて、それで私が不幸のどん底に落ちているような状況でしたから。猛烈に妬ましかっただけですの。気にしないでくださいませ」
「き、気にするなって」
「これからは普通にお姫様として、私はただのメイドとして接してくださいませ。私達が義理の姉妹であった事は誰にも言わない方が良いでしょう。色々と不都合が生じるでしょうから」
「そ、そうね。それは確かに。誰にも言わない方が都合がいいかもしれない」
「それではご機嫌麗しゅうございますわ。薬師のアイリス様」
ディアンナは不気味な笑みを浮かべ、私の元を去っていきます。
「アイリスーーーーーーーーーーーーーーーー!」
その時でした。無邪気な笑みを浮かべて、レオ王子が駆け寄ってくるのです。
「ん? どうした? アイリス、さっきのメイド、アイリスの知り合いか何かか?」
「い、いえ……別にそういうわけでは」
私は義妹ディアンナのいう通り、お互いの関係は宮廷では秘密にしておきました。何かと面倒が起きそうだったもので。
こうして私達は全く異なる身分の中、ひとつ屋根の下、宮廷での生活を送る事になったのです。
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