エルとレオが決闘をしてしまいます

「はあああああああああああああああああああああああああ!!!」


 キィン! レオの剣とエルの剣が交錯します。本物の剣です。身体に当たったら大変です。大怪我をしてしまいます。

 

 二人ともチャンバラ遊びをしているのならいいのですが、完全に真剣です。


「ふっ……思ったより腕を上げたな。レオ。以前よりやりがいがある」


「へっ。伊達に騎士団を率いてはないぜ。兄貴。油断してると足元救われるぞ! おらっ!」


 キィン!


 剣と剣がぶつかり合います。二人とも手加減をしているようには見えません。身体に当たったら最悪死んでしまいます。


 こんなの間違っています。なんで兄弟で喧嘩なんてしなければならないんでしょうか。喧嘩ではなく決闘ですか。


 どちらでも私からすれば同じようなものです。


「くっ!」


「へっ! どうだっ! 兄貴!」


 レオの剣圧の凄まじさにエルが一歩後ずさってしまいます。小競り合いをレオが制したのです。


「なぜだ……レオ」


「ん? ……何かおかしな事でもあった」


「なぜアイリスに手を出した……貴様、アイリスを情婦か何かだとでも思っているのか?」


「へっ。なんだ、アイリスとキスした事を根に持ってんのかよ。それが俺の決闘する気になった理由か。憂さ晴らしってわけだな。けどな、勘違いするなよ。俺はマジでアイリスに惚れたんだよ」


「お前は俺に色々と言ってきただろうが。アイリスと俺達王族では身分が違うだのなんだの。矛盾している事に気付いてないのか?」


「うるせぇ! 前言撤回だ! 惚れちまったら身分も何も関係ねぇだろうが!」


 レオは剣を振るってくる。キィン! エルはその剣を防ぐ。


「そうか。だったら今から俺とお前は兄弟じゃない。敵同士だ」


「上等じゃねぇか!」


「や、やめてって、二人とも!」


 私は叫びます。ですがその声は届きそうにもありません。二人とも興奮しきっています。やはり男の人は闘う事で脳から興奮物質が出るようなのです。

 こうなってしまったらとてもではありませんが手のつけどころがありません。


「兄貴、この勝負乗せないか?」


「乗せるって何をだ?」


「勝った方がアイリスを手に入れられる。それで負けた方が手を引くんだ。わかりやすくていいだろう」


「ああ。いいだろう。受けて立つ」


「行くぜ! 兄貴!」


 キィン。


 何を言っているんでしょうか。この人達は。私の了承もなしに、勝手にそんな勝負を。私の足元にバケツがありました。花壇の水やりの為でしょう。丁度水が入ってました。


 私は頭に血が上っている二人に向かって水をかけました。


 バシャッ!


「うわっ!」「なにっ!?」


「私は物じゃありませーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん! はぁ……はぁ……」


 大声を出したら疲れちゃいました。私は肩で息をします。


「もう、喧嘩でも決闘でもいいからやめてください!! せっかく二人とも命が助かったんですよ! どうしてその命を粗末にしようとするんですか。それに怪我でもしたら治療するこっちの身にもなってください」


 私は怒ります。普段怒る事は滅多にありませんが、薬師として命を粗末にするような行為はとても見過ごす事はできないのです。


「いいですか! 怪我をするのは簡単ですが、治すのは大変なんですよ! それに命はひとつきりです。死んだらそれで終わりなんですよ。それに兄弟の代わりなんてこの世にはいないんです。だからもっとお互いを大切にしてください」


「わ、悪い。アイリス。つい頭に血が上ってた」


「僕もだ。すまない、アイリス」


 エルはレオ相手には『俺』と自称しますが、私相手には『僕』というようです。やはり兄弟や親相手では態度が違うのでしょう。肉親かそれ以外かでは態度も変わってくるものなのです。


「わかればいいんです。水をかけておいてなんですが、風邪をひくので二人とも着替えてください」


「あ、ああ。わかった」


「ちっ。着替えるか。決闘は持ち越しだぜ。兄貴」


「もう本物の剣で闘うのはやめてください。死んじゃいかねないです。それと景品に私を賭けるのもやめてください」


「あ、ああ……そうするぜ。アイリス」


「ああ。すまない。アイリス。つい頭に血が上ってしまった」


「わかればいいんです」


 こうして二人の決闘は何とか丸く収まったのでた。めでたしめでたし。


 ――といったところですが、一体今後私達の関係はどうなっていくんでしょうか。

 

 それは私にもわからない事です。きっと誰にもわかりません。


 そして今後、私が考えてもいなかった出来事が次々と起こっていくのです。


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