レオとエルが決闘を始めてしまいます

「はぁ~…………」


 あの日から私は頭の中がいっぱいになってついぼーっとするようになってしまいました。あんな事とは当然レオ王子の介抱をしていた時の事です。

 まさかレオ王子がそんな事をするとは思ってもみなかった事で大変びっくりとしてしまいました。

 それだけではありません。心臓がドキドキとして、聞こえてきてしまう程でした。


 その事に気を取られて、調薬の仕事も手が付きません。注意力散漫です。仕事がはかどらないのです。


「どうかしたのかい? アイリス」


 そんな時でした。私の仕事場にエル王子が来たのです。きっと一晩中介抱をしていた私の事が気になったのでしょう。


「エル王子……」


「大丈夫かい? どこか調子が悪そうだけど。顔も赤いし。熱でもあるんじゃないか?」


「い、いえ……そんな事ないと思いますけど」


「見せてごらん」


「あっ……」


 エル王子は私の額に自分の額を重ねてきました。反則です。エル王子のかっこいい顔がすぐ目の前にあります。唇だってすぐそこに。触れてしまいそうなほど近く。

 兄弟そろって私の心拍数を上げすぎです。


「やっぱり、熱があるみたいだ」


 人の病を治す薬師が風邪をひいては本末転倒です。


「ち、違います! 風邪じゃないんです。私の体が熱くなったのは」


 仕方ありません。私は大人しくエル王子に事情を話す事にしました。


 ◇


「なんだって……それは本当か、アイリス」


「え、ええ……それで唇を。その上でいきなり求婚されまして。私ドキドキしちゃって」


 私はエル王子に事情を説明しました。


「くっ……レオのやつめ。アイリスになんてことを」


「き、気にしないでください。私の唇なんて別に。減るものじゃないですから。何か酷い事されたわけではないですし」


「気になっているのは僕の方だ! レオの奴め」


 そういって、エル王子はどこかに向かいました。嫌な予感がします。私はエル王子のあとをつけていく事にしました。


 ◇


 レオ王子は庭で寝ていました。日向ぼっこをしています。そこに、エル王子が現れます。手には剣を握っています。それも木剣などではなく実際の剣のようです。その剣が二本その手には握られています。


「んっ? なんだ? 用か? 兄貴」


「細かい話は良い。剣を持て、レオ」


「なんだよ、いきなり」


「俺と勝負をしたかったんだろ? レオ。お前の望みを叶えてやる」


「へっ。願ったり適ったりだぜ兄貴。どっちが剣の腕が上か下か。白黒はっきりとつけてやる!」


 レオは剣を手にとった。


「や、やめて! 二人とも! 喧嘩しないで!」


 私は割って入る。喧嘩はよくない。私だって兄弟喧嘩なんて見たくない。


「すっこんでろアイリス! これは俺と兄貴の問題だ」


「アイリス、悪いがこの勝負だけは譲れないんだ。レオ、病み上がりだからとか、そういう腑抜けた言い訳をするつもりはないだろうな?」


「へっ。兄貴こそ病み上がりじゃねぇか。条件は同じだろ。その点に関して俺は何も言い訳をするつもりはねぇ」


「いいだろう。では始めよう。僕とお前の決闘を」


「ああ。やろうぜ、兄貴」


 二人は決闘をはじめてしまいます。


「ああ……どうして。どうしてこんなことに」


 私はその決闘を見ているより他になかったのです。せっかく拾った命だというのに、なぜ男の人は無残に散らそうとするのでしょうか。

 それも兄弟同士で闘うなんて絶対に間違っています。


 しかし王子同士の決闘を私が止める事なんてできるはずもなかったのです。私の意思とは関係なく、決闘の火蓋は切って落とされました。

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