13、復讐は終わらない

 

 

 前世の自分の後悔を清算すべく行った復讐。


 終わってからしばらく放心の日々が続いていた。


 何でだろうなあ。スッキリ爽快な気分になると思ったのに。


 結局、明彦も郁美も心からの反省をしてくれなかった。最後まで屑だった。

 逮捕された後の明彦の事は知らない、分からない。知りたいとも思わない。


 最後に見た様子では、きっと私にやった事は後悔してないと思う。ただ逮捕された事に後悔はしてるかもしれないけど。


 ボーッと教室の窓から外を眺めていたら、ポンと頭に大きな手が置かれた。ランディだ。


「どうしたの、ボーッとして」

「う~ん……どうも気分が上がらなくて」

「まだ前世の事を考えてたの」

「まあね……」


 もっと酷い事をしてやれば良かった。なんて思ってるのはランディには内緒だ。

 大切な友人であるランディには、私の汚い部分をこれ以上見せたくなかったから。


 ついつい考えにふけってしまう私の様子に、ランディは顎に手を当てて考え込んでしまった。


「ランディ?」

「ん~……あの魔法の事だけどね」


 考えて。

 ややあって、顎から手を離して私の頬に触れる。


「封印することにしたよ」

「え、そうなの?」


 あの魔法とは考えるまでもなく、遠い過去の記憶──前世すらも見せてしまうほどの魔法。


 それを封印するとランディは言ったのだ。

 あの、魔法研究が大好きなランディが!新しい魔法を開発するのが何より好きなランディが!


「どうして?」

「だって……そんな顔を見せられたらね。前世の記憶なんて戻すべきじゃないなと痛感したよ」


 そしてしゃがみ込んで、椅子に座る私と目線を合わせてきた。


「大好きなフィアラを苦しませてしまったこと、俺は凄い後悔してる」

「ランディ……」


 胸がじわっと温かくなる。


 そうだ、いつまでも過去に……前世に囚われていてはいけない。

 私には今、私を愛してくれる大切な家族が居る。そして大好きな幼馴染がいるんだ。


 現実を見つめ、前を向いて生きなくちゃ。

 それが前世の自分への、最高の供養となるはずだから。


「ありがとう、ランディ。私も大好きよ」

「ん……」


 照れ臭いのか、ランディには珍しく顔が赤くなってることが微笑ましくて。


 ふふ、と笑ってしまった。


「おーいお二人さん、ここ教室だけど~?」


 不意にかかるクラスメートの声に。

 現状を思い出して慌ててランディから離れようとしたら、グイと手を引かれてしまった。


「見せつけてんだよ。俺のフィアラに誰も手を出せないようにな!」


 そんな事をランディが言うものだから。

 大きな歓声と冷やかしが降ってくるのだった。


 私はランディの胸に抱かれながら。


 嬉しすぎて、幸せ過ぎる現実に。

 泣き笑いを浮かべるのだった──

















「まあ賑やかですこと」


 不意に教室の扉がバンッと荒々しく開けられ、静寂が訪れた。

 何事かと一斉に向けられる視線。それを満足そうに受け止める二人の人物。


 その人は教室に入って来た。


 長いピンクの髪を払いのけて。


 そして彼女は言ったのだ。


「初めまして皆様。本日より転入してきましたイクミラと申します」


 その姿を。

 声を。


 目にした途端、耳にした途端。

 ドクン、と心臓が激しく鼓動する。


「そしてこちらは私の双子の弟」


 すっと彼女が手を差し伸べる相手。


 黒髪の少年が教室に入って来た。


「アキシュと申します。以後お見知りおきを」


 頭を下げて上げる。


 その瞳。

 二人の瞳。


 ドクン、ドクンと心臓が激しく音を立てる。

 キイイン……と耳鳴りが煩い。


「フィアラ?」


 思わずランディの腕をギュッと強く握りしめた私を、訝し気に見るランディ。私の異変にすぐさま彼は気付いた。


「どうしたの?」


 ヒソヒソと小声で私に耳打ちする彼を見上げて。


 私は震える声でランディに言った。


「あいつらだわ……」

「え?」

「郁美と明彦……その生まれ変わりだわ」

「そんなまさか」

「いいえ、間違いない」


 私の魂が告げている。

 あの二人だと。


 転生して、私の前に現れたのだと……。


 私は信じて疑わなかった。


 不意に、イクミラが私の方を見た。


「──!!」


 一瞬、その目が細められ。ニヤリと笑うのが見えた気がした。


 気付いているのか。それとも……。


 分からない。分からないけど分かる事がある。


 きっと彼女たちは私の天敵となるだろう。きっと何かトラブルが起きるだろう。


 だけど。


 ギュッと、ランディの服を握る手を強めて。

 私は小さく呟いた。


「私は逃げない──」


 今度こそ、逃げずに立ち向かう。


 今度こそ、完全に前世の因縁を断ち切る──!


「私は負けないわ」


 その私の呟きを聞いたのはランディだけ。

 彼がどう思ったのか分からないけれど。

 ギュッと私を抱きしめてくれた事に安堵し。


 私はこれから起こる嵐を予感して、心を高揚させるのだった。


 さあ……

 今度こそ


 復讐しましょう





 ~fin.~



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屑な夫と妹に殺された私は異世界転生して復讐する リオール @rio-ru

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