ヴェルナスタ特務局の魔法事件簿
司之々
第一章 大運河の怪魚人
1.静かな夜も良いんだけどな
リヴィオ=ヴィオラートの週に一度の楽しみは、造船所の雑用上がりに、屋台で
もちろん家に帰って夕食も食べるが、十六歳の育ち
「今週もがんばった! 食べて良いぞ、俺!」
雑用は週末休日の二日間、道具の整備や
リヴィオは同級生の中でも、背が低かった。
少しでも成長するため、こういう
歩道より広く複雑に交差する
もう少し暖かくなれば、外国の金持ちが観光に来て、また
「静かな夜も良いんだけどな。ホント、変な騒ぎさえなけりゃ……」
手頃に冷めてきた包みを開けて、一口目をかぶりついた、その時だった。
魚が立っていた。
細い路地の影に、ぬめっとした照り返しが、それはそれで幻想的だ。リヴィオより背が高い。と言うか、足が長い。
食い出がありそうな巨大な魚に、むだ毛のないつるっつるの、筋肉質の手足が生えていた。
「……のぉおああああああッ!?」
『もぉおあああああああッ』
同じような悲鳴と、多分、
そして同時に走った。リヴィオが逃げて、
「で、で、で、出たっ! ホントに出たっ! 俺、腹へりすぎて、倒れたわけじゃないよなッ?」
『もぉおあああああああッ』
『もぉおあああああああッ』
「す、すす、すいませんッ! 生意気なこと考えましたッ! な、なんか、怒ってます? 話し合いましょう! え、えええと、こ、これでも、食べながら……」
言いかけて、ふと思いつく。
我ながら、この後に及んでしっかり持ったままの、カリカリに
同族。
命でなくても、陸上生物の
とにかく走る。逃げる。
何度目かの角を曲がった先で、今度はまともな人影と、
軍や警察みたいな、銀の
それでも、魚でないだけ、細かいことにこだわる余裕がリヴィオにはなかった。すがりつく。
「た、たた、助けてください! で、出ました! 魚! 変な魚!」
描写通りの
えらの動きが早い。呼吸してるのか。しかも乱れてるのか。やっぱりどうでも良いことを、思わずリヴィオは考えた。
「……あ、ホントですね。困りました」
男が、のんきな声をもらした。そしてリヴィオを振り払って、逃げ出した。
「え? えええっ? ちょ、ちょっと……」
『もぉおあああああああッ』
「わぁああああああッ!」
また叫んで、男を追って、リヴィオも逃げた。
「あ、ああ、あんた! その
「ぼく、えらい人なんですよ。適当に形だけ見回って、こういう体力仕事は部下に押しつける気でいましたのに、あてが外れちゃいました」
「さ、最低だっ!」
言うだけあって、男の走る速さは、リヴィオとどっこいだった。多分一緒に、それほどもたず、息が切れるだろう。
「どうしましょうかねえ」
「その、ぶ……部下の、人は……っ?」
「近くにはいないみたいですね。ぼく、嫌われてるっぽいですから」
「すっげーわかるよッ!」
振り返れば、
「ええと……君、提案があります」
「なんだよっ?」
「ここに、秘密のお薬があります。飲むと、すごい力に目覚めて、ああいう怪物をやっつけることができます」
男が小さな、
「う、
「ぼく、才能ないと思うんですよ。君なら、そう、才能というか……素質がありそうです」
「どうしてそれで
「それから、素質があって力に目覚めても、呪いがかかります」
「聞いてねえッ!」
「い……一応、確認するけど……呪いって、どんな……」
「恋人ができなくなります」
「最悪だっ! 魚になるか、恋人あきらめるかの二択かよ! どっちにしても人生終わるのかよ!」
「そうですか?
「魚だって
「あれ、そうでしたっけ?」
「食べる時、骨よけるだろっ!」
『もぉおあああああああッ』
「わああああっ! すいません! 食べるとか言いませんっ!」
収拾のつかない状態で、ついにリヴィオの足がもつれた。男の服をつかむと、まったく支えにならず、二人そろって
「
「そうだろうよ、この税金泥棒……っ!」
「んー。それじゃあ、こうしましょう。良い
「お、大人って、
不毛が加速していく会話の間にも、
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