聞こえない
少し離れた席に座った友人の様子をちらりと窺った。何か言っている。
「えー? なにー?」
運動部も驚く程の大声で叫んだ。
「──や──ろ!! お────め────ぞっ! ──ろ!!」
彼が山びこでもしているかのように叫んでいる。俺も同様に叫ぶ。距離にして十数メートルといったところだろう。
ふと、影が俺を覆う。バッと勢いよく振り向くと、腕を組んで鬼の形相で仁王立ちしている妻が居た。
「またこんな所で金スってくるんだから! ちょっとは懲りなっ!!」
そうして俺は自宅に連行された。彼はきっとこう叫んでいたのだろう。
「早く逃げろ! お前の嫁さんが来るぞっ! 逃げろ!!」と。
せっかく大当たり確定だったのに、パチンコを知らない妻は確定演出を知る由もなかった。俺の話など聞く耳持たずで、なんとも悔しい。そして、しれっと俺の席に座った友人が憎らしい。
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