曇天
仕事の帰り道、曇天を仰ぎ臭く汚い空気を吸い込む。気管を傷め肺を汚す。
ついにパラパラと雨が降り始めた。次第に雨足は強まるのだろう。早く家に帰りたい。なのに、足が鉛の様に重い。身体が怠く息苦しい。一歩一歩擦り足で進む。
最後の角を曲がり、ようやく我が城が見えた。あと数十歩で辿り着く。しかし限界のようだ。
意識がふわっと浮いた。目が開かない。道路を走る車の音や道端で遊んでる子供たちのやかましい声さえ途切れた。
あぁ、死んだのか。そう思ったが、地面に落ちる衝撃がない。痛みを感じる前に死ねたのだと直感した。
想像もしなかったが、死んでからも意識はあるようだ。いつまであるのだろう。早く
「黄泉に行きたいのですか」
ん? 何か聞こえたような気がする。何だろう。俺の感覚は消滅したのだと思ったが。
「黄泉ではなく、アエテルヒルへ行くのです」
「······誰だ」
「私は案内人。
「無だと?」
「ふふふ。死後は天国や地獄に
「それはさすがに。でも黄泉の国とかってのにはせめて······」
「同じ事でしょう。人は死ねば皆、無に
「無って······」
「アエテルヒルは永遠の無を意味します。さぁ、参りましょう。死者は貴方だけではないです」
全てから解放されたと思ったが、通り越して無くなっちまうのかよ。だが、不思議と全てを受け入れられる。これが死ってもんなのか。
守るものも失うものも無かった俺には、俺自身が無くなったところで何も変わらない。
つまんねぇ人生だったな。
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