百合の花 ー21ー

A(依已)

第1話

 扉を、勝手に開けた。

「すみませーん。

誰かいませんか?」

 なんの反応もない。誰もいないようだった。

 教会の中を見渡した。どことなく中華風のキリストの絵が壁に描かれ、手作り感満載の、田舎らしい、こじんまりとした素朴な教会だった。

 わたしは、時代時代の圧政によって、きっと少数民族の教徒ごと、山の奥へ奥へと追いやられ、この地に辿り着いたのでであろう、この教会の数奇な運命を思った。ひょっとしたら、数々の死人も出たに違いない、と。

 そんなことに思いを馳せていると、扉が開く音が、ギーッと鳴った。不法侵入はなはだしいわたしは、焦りを隠せなかった。

「おじゃましてます」

と、入って来た誰かに、申し訳なさげに小声でいってみた。

 その誰かは、今まで見てきた青ベースのとは違う、黒い民族衣装をまとった老人であった。きっとこの老人は、それまでとはまた別の、少数民族なのであろう。

 わたしの日本語の挨拶に反応した老人は、わたしがしゃべっているのが何語であるのか、サッパリとわかっていないようだ。当然だ。こんなところに、日本人がやって来ることなんて、今までも、そしてこれからも、絶対あり得ないであろうから――。

 そしてあちらもあちらで、聞き馴染んだ北京語の響きとはまったく違う、現地語のような言葉を、わたしに向かい発した。

 その老人をよく見ると、首にクロスをかけている。そして手には、大きな鳥の羽のようなものを持っている。

 おそらく彼は、村の村長兼神父兼シャーマンといったところだろうと、わたしは推測した。あながち、間違ってはいないのだろう。

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百合の花 ー21ー A(依已) @yuka-aei

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