Side:Seiya 4

 咲良ちゃんが参考書返しに来たのでチャンスと思ったんだけど、何か慌てて家に帰ってしまった。

 時間無ければまたの機会でもいいか。


 と思って玄関を閉めようとしたら、咲良ちゃんの家の方からドタバタと騒がしい音が聞こえて、ダッシュでこちらに向かって来る咲良ちゃんが見えた。


 「お、お待たせ!」

 「お、おぅ…まぁどうぞ。」


 玄関の扉を大きく開いて咲良ちゃんを迎え入れた。


 「おおおお邪魔しまます…。」

 「咲良ちゃんどうしたの?落ち着いて。」

 「ひゃいっ!」


 何か咲良ちゃん、緊張してるみたいだけど、実は俺の方がめちゃくちゃ緊張してる。

 一昨日、学校で水原さんに『友達に告白してあげて』とお願いされ、丸々一日考え込んでしまった。

 そもそも告白なんて誰かに頼まれてするものじゃないだろう、と言うのもあるけど、頼まれなくても俺は咲良ちゃんの事が好きだし、咲良ちゃんさえOKなら彼女になって欲しいと思っている。

 そのきっかけを水原さんが作ってくれたと思えば、咲良ちゃんとゆっくり話が出来る学校が休みの日がいいとは考えていた。

 ただ、その機会がこんなに早く訪れるとは思っていなかったので、ちゃんと言えるかどうか。


 「えっと…あn「こっこれっ!」


 取り敢えず普段と変わらない雰囲気で話し掛けようと声を掛けると同時に、咲良ちゃんがリボンの付いた赤い箱を差し出した。


 「んぇ?」

 「バ、バレンタイン…毎年あげてるから…その…今年も…」

 「あ、あぁ…ありがとう。」

 「でも…」


 咲良ちゃんが言い淀む。


 「彼女が出来たらこういうのもあんまり良くないよね…」

 「え?」

 「金曜日…水原さんにチョコ貰ったんでしょ?」

 「あ、うん…貰ったけど…」


 あの後聞かせてくれたけど、水原さんは結構な数のチョコレートを男子に配っていたとの事。

 基本的には『仲良くしてくれてありがとうチョコ』なるもので、俺と同様、勘違いしないようにしっかり手紙にその旨を書いて釘を刺しておいたらしい。


 「水原さん…綺麗だもんね…」


 寂しそうに呟く咲良ちゃん。

 俺は咲良ちゃんからチョコレートを受け取る時、箱と一緒に咲良ちゃんの手を包み込むように握った。


 「ふぇっ!?」


 驚いて引っ込めようとする咲良ちゃんの手を、俺はきゅっと力を入れて握り直し、咲良ちゃんの目をじっと見た。

 もう後には引けないぞ俺。


 「せ、誠也くん…?」

 「咲良ちゃん。俺は、咲良ちゃんの事が好きだ。会った時からずっと。」

 「へ…?」

 「水原さんがチョコ渡したのは俺だけじゃないし、そもそも水原さんはクラスメートの一人って言うだけだよ。」

 「だって…水原さん…誠也くんの事…好きなんだもん…」


 それは思いっきり全力で否定されたんだが。


 「本人は言ってないでしょ?」

 「ま、まぁ…うん…」

 「水原さんには『勘違いするな』って言われたからね。」


 大きく深呼吸一つ。


 「もし仮に水原さんが俺の事を好きだとしても、俺が好きなのは咲良ちゃんだけなんだ。だから、俺と付き合って欲しい。」


 言ったぞ。

 言っちゃったからな。

 一度出した言葉はもう取り消せないんだからな。


 咲良ちゃんは驚いた表情のままゆっくり俯く。












 「はい…私こそ宜しく…お願いします…」




 令和3年2月14日…


 咲良は俺の彼女になった。

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