Side:Sakura 3
家に帰って来た私は、部屋に入るとベッドにぱたっと倒れ込んだ。
「どうしよう…」
誠也くんの靴箱に入っていたチョコレート、授業中の水原さんの視線、どう考えても水原さんが誠也くんにチョコレートをあげた事に繋がってしまう。
もし水原さんが誠也くんの事を好きなら、誠也くんは水原さんと付き合ってしまうのだろうか。
そうなったら私はどうすればいいんだろう?
いや、何かをするとかしないとか以前に、どうなってしまうのだろう?
今までみたいに一緒に登校したり、話をしたりする事は出来無くなってしまうのだろうか?
「そんなの嫌だ…」
でも、水原さんも私にとっては友達なんだよね。
高校に入って最初に話し掛けてくれたのは水原さんだった。
面白い本とか美味しいクレープ屋さんとか、お化粧も教えてくれた。
人見知りの激しい私にも気安く話し掛けてくれた大切な友達。
友達が幸せになるのを祝福出来無いのも何だか情けない。
それでも誠也くんが他の人とお付き合いするのは嫌だ。
私は小さいなぁ。
2月14日。
今年は手作りのチョコレートを誠也くんに贈るつもりだったけど、気持ちがぐらぐらのぐちゃぐちゃで、とても作る気になれなかった。
一応、失敗した時の為に既製品のチョコレートを買ってあるから、去年までと同じように『幼馴染として』渡す事は出来る。
けど、何だか誠也くんに会うのが今まで以上に辛い。
水原さんとはどうなったんだろう?
付き合う事になっちゃってたら嫌だな。
そんな事を思いつつ勉強机の上を見ると、前に誠也くんから借りた数学の参考書が目に入った。
「そろそろ返さないといけないな…」
辛い気持ちと借りた物を返さないといけないのは別の話。
私は重い腰を上げて誠也くんに借りた本を手に取って部屋を出た。
気が付けば誠也くんの家の玄関前に居た。
会いたくて仕方ない時は隣の家でも随分遠く感じるのに、今日はあっという間に着いてしまった気がする。
インターホンを押すと、中でパタパタと歩く音が聞こえた。
玄関の扉が開くと、そこには誠也くんが居た。
「あ、あの…参考書返しに来たの…その…ありがとう。」
少し素っ気ない感じはしたけど普通に喋れた。
誠也くんは私の手から参考書を受け取って言った。
「あぁ、うん…ちょっと上がっていく時間ある?」
「え?」
予想してなかった誠也くんの申し出に、参考書を返すという口実でこうして会いに来たのに何で私の手には参考書しか無いのかと、数分前の自分を恨んだ。
「あ!ちょちょちょちょっと後でもいいかな?すすすぐ戻るから!」
きょとんとする誠也くんを残し、私は自分の家へとダッシュしていった。
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