Side:Seiya 3

 放課後。

 俺は学校の正門から陰になって見えない校舎の横に来ていた。

 目の前には直視するのが憚られるような美女、水原愛菜みずはらまなさんが立っている。

 授業が終わって帰ろうとしたところを呼び止められ、此処に連れて来られた。


 「加藤君はお付き合いしている人、居るの?」


 開口一番この質問だ。

 ほんわかとしていられない内容ではあるが、柔らかく温かさを感じるほんわかとした声だ。

 ただ、水原さんが何を言わんとしているかくらいはいくら俺でも分かるけど、もう答えは出ているんだよな。


 「居ないよ。」


 水原さんの表情が少し緩む。


 「よかった。」


 やっぱりそっち系だよな。




 「私の気持ち、受け取って貰えるなら、私のお願い聞いて欲しいな。」

 「気持ちは嬉し…ん?お、お願い?」


 てっきり告白されるものと思っていたのでつい断り文句を口走ってしまった。


 「今、お願いって言った?」


 あたふたしながら会話についていこうとしている俺は不思議そうな顔をするしかなくて、その顔を水原さんが覗き込んできた。


 「あ、もしかして私に告白されるとか思った?」


 水原さんもなかなか鋭い。

 もしかしなくても、チョコレートを靴箱に手紙付きで入れたその日の放課後に呼び出すとか、そういう流れだとしか思えなかったんだけど。


 「無い無い!」


 水原さんはけたけたと笑い出した。


 「あ、悪い意味じゃないのよ。私加藤君の事嫌いではないもの。でも彼氏よりはお友達の方が楽しそうでいいな。」


 ちょっと残念なような、ちょっとほっとしたような。

 それにしてもそこまで全力で否定されると多少なりとも傷付くんだが。


 「それに…」


 水原さんが続ける。


 「友達の好きな人を横取りするわけにもいかないからねぇ。」

 「え?」


 手を後ろで組んだ水原さんは俺のすぐ前に来て、その綺麗な顔でニコニコしながら俺の顔を覗き込んできた。


 「加藤君が好きだって友達が居てね。自分から告白する勇気が無くてどうしようっていつも思ってる子なの。」

 「そ、そんな子が居るのかよ。初めて聞いたぞ?」


 水原さんはふふっと笑って俺の顔を更に覗き込んでくる。


 「最初は見ていて『微笑ましいなぁ』って思ってたんだけど、いつまでも自分の想いを伝えないから段々やきもきしてきちゃって。それでお節介だとは思ったんだけどちょっと協力しちゃえと思ったの。」

 「と、友達思いなんだな。」

 「さぁ、友達思いって感じてくれるかどうかは加藤君次第になるけどね。」


 悪戯っぽく俺の顔を見ている。


 「それじゃあ、水原さんのお願いって…」

 「うん。その子に告白してあげて欲しいの。」

 「え、えぇっ!?」


 そんな事、いくら何でもその子に失礼だろ。

 って…水原さんが言う『友達』って誰なんだ?


 「多分、今日も家で色々悩んでると思うから。」

 「ちょっと…けど、その相手って誰?」


 水原さんは嬉しそうな顔をして言った。












 「片桐さんよ。」

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