第27話 別世界3
「そしてそのハコニワの中心にひと際大きな建物が見えるだろ。それがこのタカマガハラを統括する管理塔、バベルタワーだ」
「旧約聖書のバベルの塔か。神に対する畏れと信仰心を失った人間がそのおごりから天まで届く巨塔を築こうとした。しかしその増長と傲慢を神が許すはずもなく、それまで共通の言語を使っていた人間たちの言葉を通じなくさせ、争いを起こさせた。その話が由来なのか」
「よく知っているな、その通りだ。つまりこのタカマガハラの完成はその名の通り、神の領域に人類が足を踏み込んだということなんだよ」
真田にそう言われ、空を見上げた。するとその先に尋常ではなく高い建物が建っていることに気が付く。黒く、細く、さらに上部には球体のようなものが建設されている。地球における重力を無視したような巨大な建造物だった。
バベルタワーはあまりに高く、その頭頂部は全く見えなかった。疋嶋は人が行きかう道路の真ん中で立ち往生し、口を半開きにして、見入ってしまった。
「これどこまで続いているんだ?」
「向こうの地面までだ」
「空に地面?」
「ハコニワはその名の通り、閉鎖された空間なんだ。この町は巨大な箱の内側に作られている。つまり、バベルタワーはその箱の中を繋いでいるんだ。地球の引力が核のある中心に向かって働いている重力だとすれば、ハコニワの引力は外側に働いている遠心力のようなものだ。でもそんな科学的原理がなくともそこは夢想世界。現実世界の熱力学などは意味を持たない」
真田から説明を受けることで最初は現実世界と何ら変わりないと幻滅したこのタカマガハラが、酷く非現実的な空間であることを認めざるを得なかった。
疋嶋は首を落とし、道路に目を向け、質問する。
「なぁあの道路の端に並んでいる箱は何だ?」
そこには電話ボックスのようなものが建ち並んでいた。半透明な長方形の箱には人の列が出来ていて、皆その中へと吸い込まれていく。
「それが転送装置さ。ハコニワでショッピングを楽しみ、その後は別空間へと移動する。それがさっき言っていたドラゴンがいるようなユーザー自身の想像によって作られた世界だ」
「じゃああの中に入れば、全く別の世界に行けるんだな」
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