第26話 別世界2

 想像した夢とは裏腹にあまりにもその世界は現実と酷似していた。行き交う人並みと明滅する信号機。そして立ち並ぶ数々のビル。多少、外観が近未来的であるが、驚くべき世界観は特に見られない。

 てっきり、現実とは全く別の世界に迷い込んでしまうものだと思い込んでいた。しかし、この夢想現実はあまりにも現実的であり、心なしか幻滅した。


「おい、聞こえるか疋嶋」


 脳に直接、真田の声が響いた。いつもなら耳の外から聞こえる音が耳の内側から聞こえてくる。何ともむず痒く、心地悪い。


「ああ、どうやら成功したみたいだな」


「どうだ、初めても感想は?」


「なんというか、思っていたのと違うな。これじゃあまるでニューヨークとか東京とか、そういう一大都市と変わらないじゃないか。もっとファンタジーな世界だと思っていたよ」


「例えば、ドラゴンが空を飛んでいるとか」


 真田の笑い交じりの声が聞こえる。


「まぁ言ったらそうだな。でももっと想像絶するような世界が広がっていると思った。だってここは夢の世界なんだろ。これでは起きているときと同じだよ」


「残念だったな。ミラーワールドだって言ってしまえばメタファに過ぎないんだ。人の想像力はそれまでに体験した記憶から作られる。つまり、人が作る人口の空間も元は現実世界を模して造られるんだ。だけど、さっき言ったドラゴンが空を飛んでいる世界にテレポートすることも可能なんだぞ」


「じゃあここ以外にも他のエリアの存在しているのか」


 疋嶋は交差点を渡り、ビルの谷間へと入っていった。車は通っていないが、人通りは激しい。さらに建物は見た目だけではなく、しっかりとその内装まで機能していた。ビルの中には様々な店舗が軒を連ねている。


「もちろん、タカマガハラを利用しているユーザーは全世界に億単位で存在する。脳内にマイクロチップを入れた人間のみで換算すれば、その普及率は八割を超えているからな」


 真田は言われ、改めて周りを見渡してみると、車が取っていない分、渋谷や新宿より歩行者の数が多い。さらにアバターは現実世界の容姿をモデルとしているため、様々な人種の人々が利用していた。


「お前がスポーンしたその場所は始まり地、ハコニワと呼ばれているエリアだ。ダイブしたユーザーは皆、そのエリアに飛ばされる。ちなみにタカマガハラには言語の壁が無い。言語は脳内で翻訳され、今俺がお前に話しているように脳内に直接届く。その空間は言語という世界における一番の障壁を取っ払った理想郷なんだよ」


 確かに他人種の人々の会話は全て日本語に聞こえていた。海外のなまりなども一切なく、生まれながら日本にいるような完璧は発音で、楽しそうに友人同士で会話している。

 人々を隔てる言語を克服したタカマガハラは文字通り世界を一つにしてしまった。疋嶋の記憶の外にある八年間の間に起こった特異点でインターネットをしのぐさらなる上位世界が完成してしまったのだ。


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