第28話 別世界4
ここは近未来SFに登場するようなコンピュータが支配した空間ではない。人の想像力が作り出した脳による空間、それがタカマガハラの本質であり、共鳴する夢の正体なのだ。
この全身を包み込む、新鮮な感覚。そして信じられないようなシステムの応酬。この非日常に感動し、人類の発展を肌で感じた。
「どうやら、慣れてきたみたいだな。じゃあちょっと俺はマイクロチップの使用履歴を見てみる。もしかしたらクラッキングに使われたアカウントが生まれた原因が分かるかもしれない」
「分かった。何かあったら俺を起こしてくれ、それまでこの世界を満喫するよ」
疋嶋の声が聞こえなくなるのと同時に通信を切断した。これでこちらの声が疋嶋に聞こえることはない。
マイク付きヘッドホンを付けたまま、真田がパソコンを操作し、まずは疋嶋のマイクロチップに刻まれている八年間のタカマガハラの利用履歴を洗い出した。
もしも本当にアカウントがクラッカーに利用されたものだとすれば、現在疋嶋がダイブしているアカウントが二つに分離がしていると仮定できる。例え、既に別のアカウントとして認証されていたとしても、分離前の何かしらの履歴が残っているはずだ。
真田はマウスのホイールを転がしながら神妙な表情をした。首をひねり、何度もディスプレイを確認する。
「どうしたの? なにか不具合があったの?」
隣でその様子を黙って見ていた野島が声をかける。するとヘッドホンを肩まで下ろし、顎に手を置きながら顔を向ける。
「確かにダイブは成功した。疋嶋のアバターも安定している。だけど、タカマガハラの使用履歴が一向に見つからないんだ」
「それはパソコンでログインしいるからじゃなくて? 八年間の陽介がタカマガハラを利用していた媒体は恐らくだけど、スマホでしょ。少なくともそのパソコンを介してダイブしたのは初めてのはずよね」
野島は当たり前のように堂々と答えた。
「いやタカマガハラの情報は全て脳内に埋め込まれているマイクロチップに記録されるんだ。例えアカウントのみが何らかしらの原因で分離したとしても、マイクロチップというハードウェアには情報が残る。しかし疋嶋のマイクロチップには以前、ログインした記録が全くないんだ」
真田は額に汗をかきながら、さらにパソコンを激しく操作した。
「こんなことはあり得ない。クラッキングに使用されたIPアドレスも、いま疋嶋が使っているIPアドレスと一致している。それなのに、なぜ使用履歴が無いんだ!」
「データを盗むときに削除されたんじゃないの?」
「いやだとしたら……いま疋嶋が使っているマイクロチップさえも……」
真田は話している途中で言葉を詰まらせた。手を止め、唖然とした表情でディスプレイを凝視する。
「おい、嘘だろ……」
「ちょっと、何があったのよ」
「これを見てくれ……」
真田は一歩横に移動し、野島がディスプレイを閲覧するためのスペースを作った。
「疋嶋の脳内に埋め込まれたいマイクロチップは六年前のものだ。だけどいまパソコンに繋いで中身を見てみると最初に使用されたのが、疋嶋が目を覚ました八月十六日からになっているんだよ……」
「つまり六年もの間、埋め込まれだけで一度も使用されなかったということ……」
この奇妙なデータに二人の全身は粟立った。
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