第66話女王様
スネアは怯えずに逆に怒りをぶつけてくる私に、一瞬怯んだが直ぐに立ち直り。
「なんだ?その装備は?ゴツイ装備にしたって怯んだりしねーぞ!」
大きい声で私を怒鳴りつけて来るスネアに、私は呆れたようにため息を付いて。
「そんなに怒鳴らなくても聞こえますよ、耳が悪いんですか?あ、悪いのは頭でしたね」
私が少し挑発すると、スネアは顔を真っ赤に染め、鼻息荒く掴みかかって来た。
私は掴もうとするスネアの右手をメイスで撃ち抜く、血などでないように、骨だけを確実に粉砕するような力加減で振るわれたメイスは、手の指の骨を文字道り粉砕して、スネアの突き出した手はタコの触手の様にぶらんと垂れ下がった。
「へ?」
スネアが突き出して、今、掴もうとした手に力が入らなくなったことに疑問を感じたと同時に、右手から脳を突き刺す激痛が上って来た。
「ぎゃあああああああああぁぁぁぁ、て、手が、俺の手が!」
内出血で紫色に変色して、グローブみたいに膨らんだ右手を抱え、転げまわりながら叫ぶスネアを見下ろす私は、対PK対策をとろうか悩んだ。
メビロの時も居たのよね、ゲームだからって悪質なプレイヤーが一人に粘着して狩るPKとか、振られたからってしつこく粘着してくる人とか、噂ばら撒いて人を陥れる人とか、スネアの様に初心者狩って喜んでるORETUEEしてる人とか、初心者狩ってどこが強いのか全く分からなかったけど、PK狩るべし慈悲はなし!これは大体の私達ギルドアヴァロンのプレイヤーに共通認識だったと思うのよね。
だって無視しても、ウザがらみしてくるだけなんだもの。
特に酷かったのが私とギルマス(ギルドマスター)のアーサーだったのよ!ネトゲは出会いアプリじゃ無いのよ!ゲームが楽しみたいのに何でリアルで会わなきゃいけないのよ!アーサーも元ネタの騎士王の様に騎士らしくいようと必死でロールプレイしてたけど騎士らしくって結構難しかった見たい、本人は清廉潔白な性格だったから素でも問題なかったと思うけどね。
ちょっとメビロ時代を思い出しちゃった、さすがにPK対策はやりすぎかしら?私がやろうとしてることは簡単に言えば拷問に近いのよね、さすがにやりすぎよね。
私は考え直して、まだ右手を抱えて転げまわってるスネアの後頭部を踏みつけた。
傍から見たら土下座してる人の頭、踏みつけてるみたいで酷くサディスティックな構図になっちゃた。
「もう悪さしないかしら?悪いことしないなら治してあげるわよ」
私がスネアを見下ろしながら、そう呟くとスネアは必死に痛みをこらえて。
「ふ、ざける、な!ぜってー後悔させてやるからな!」
私の靴の下で怒りをこらえるように呟くスネアに、私はため息をつきながら。
「そう、まだ悪いことするつもりなのね、じゃあ」
私は呟くと今度は左腕の二の腕に向けてメイスを振り下ろした。
「うぎゃあああああぁぁぁぁ!」
スネアは右手を抱えていた左手がだらりと垂れ下がり、左腕の二の腕が空気を目一杯入れたゴムチューブの様に膨らんでいた。
両腕をだらりと下げたスネアは痛みに耐えかねてすすり泣き始めた。
足の下から響いてくるすすり泣きを聞いた私は、やり過ぎたかしら?と考え。
「あなたが心を入れ替えるのでしたら、回復して差し上げますよ?」
私がそう言うと、ぐすぐすと鼻を啜る音が聞こえてから。
「もう、じばぜん、ゆるじでぐだざい」
と声が聞こえてきたので、私は一度頷き。
「分かりました、では『ハイヒール』これで怪我は無くなったはずです。
これからは悪さはしないようにね」
私はスネアに声を掛けてから後頭部を押さえていた足を下ろした。
その様子を見ていた冒険者達は皆で一斉に[[女王様だ!]]と心で突っ込みを入れたらしい。
頭の拘束が解けたスネアは、奇妙なほどぺこぺこと頭を下げながら、そそくさと冒険者ギルドを離れて行った。
そんな様子を見送った私は一息つき、いつもの法衣に変えてスネアに絡まれていた少年に向き直った。
「大丈夫?怪我は無いわね?どうして絡まれてたの?」
私の質問に少年は、びくびくを怯えているようだった。
あれ?私、やり過ぎてないわよね?PKだったらもっとじっくり、死に戻らないように手加減して、殴っては回復してを何度も繰り返すんだけど、今日はそんなことしてないから大人しいほうよね。
私は小首を傾げながら、少年を見ていると、少年は怯えながらも頭を下げてきた。
「助けてくれてありがとう、俺はアトムってゆーんだ、よくアイツに稼いだ金取られてたんだ」
なるほど、毎度恒例だったのね、ならもっと痛い目にあってもらった方がよかったかしら。
私が黒い嗤いを浮かべると、少年はビクリと身体を跳ねさせた。
そして少年は下を向き、ポツリ、ポツリとどうして冒険者ギルドで働いていたか話し始めた。
「俺、孤児なんだ、俺のお世話になってる孤児院、前の神父様が死んでから、神殿からの寄付が全然来なくて、今は神父様の娘のラナさんが食堂や宿屋に行って頭を下げて、やっと残飯を貰ってきてるんだ、そんな状態だから少しでも稼いで、チビ達にもっとちゃんと飯食べさせてやりたくて、冒険者ギルドで薬草採取してるんだけど、薬草いくら積んできても全然金にならなくて、それに稼いでもアイツに取られるせいで・・・」
アトムは両手が白くなるほど握りしめて、歯を噛みしめながら悔しそうに、話してくれた。
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