第60話ワーラント戦2

右前足を傷付けられらワーラントは、傷を舐め足を確かめるように一度踏みしめ、大丈夫だと確認してからアベルを睨みつけて吠えた。


「ガアアアァァァァ!」


ワーラントに睨みつけられたアベルは、動きを止めてしまった。


「うっ!」


アベルは声を漏らし青い顔をして硬直してしまい、ワーラントはそんなアベルを睨みつけ、完全に敵として狙っているのがわかった。

 アベルとワーラントの様子を見ていたマーナが、シャドウアサシンの弓で影に矢を射かけるが、ジャンプして躱されてしまった。

マーナが作ってくれた隙を突き、私はアベルに叫んだ。


「しっかりして下さい!」


私が声を掛けると、アベルは硬直が解けたように身体を動かし、青かった顔も元に戻り、ワーラントを睨んだ。

 アベルが受けたのはスキルの(威圧)よね、この世界の魔物もスキル使ってくるんだ、ってことは他にもスキル持ってるかもしれないわね。

 確か獣系モンスターのスキルって(爪撃)と(牙突)後(俊足)も持ってたはず、爪撃は文字通り爪での攻撃に加算されてたはず。

 牙突は噛みつき攻撃に加算されて、俊足はたぶん動きからずっと発動してるわよね。


私が獣系の魔物が持ってそうなスキルを思い出していたら、ワーラントがアベルに向かって突進して来た。

 私はさっきと同じ様にアベルとワーラントの間に割り込み、ワーラントの攻撃を盾で受け止める。

 私がワーラントを受け止めたのを見計らって、今度はマーナが弓を射かけた。


「一度ぐらい当たってもいいじゃない!」


マーナが自棄になったと取れそうな声を発しながら、弓を射るとワーラントはその矢を、今度は避けるのではなく口で咥えて受け止めた。

 明らかに格の違いを見せつけるように、ワーラントは受け止めた矢を吐き捨てて、マーナを睨みつける。


「うぅっ」


睨みつけられたマーナは、アベルと同じように顔を青褪めさせ、硬直してしまった。

 (威圧)はレベル差があればあるほど聞きやすい、残念だけどアベル達よりワーラントの方がレベルが高いんだわ。

 ここまで硬直しちゃうと戦闘にならないかも、でも私が攻撃に回ったら防御できる人がいなくなっちゃう。


私はジリジリとした焦りを感じていると、アベルがワーラントに切りかかった。

 アベルの剣戟をワーラントは難なく躱し、当たるか当たらないかのギリギリで躱して、もてあそんでいるようにも感じた。

 私は何時でもワーラントの攻撃を防御できるように身構え、マーナはいつでも矢を撃てるように構えていた。


私とマーナが様子を見ている間も、アベルはワーラントを追いかけながら、切りかかっていた。


「くそ!当たらない!何で当たらないんだ!!」


アベルは当たらないことに苛立ち、大振りの攻撃を放ち続ける。

 だがワーラントには一向に当たる気配が無かった。

 不味いわね、アベルが入れ込み過ぎてる!このままじゃ大怪我しちゃうかも・・・。

 私はワーラントから目を離さないようにしながら、マーナに少しづつ近づいて行った。

 マーナも私が近づいていることに気付き、私に近づき始めた。


「マリア、どうするの?このままじゃスタミナ切れで、アベルがヤバいよ」


マーナが心配そうにアベルを見ながら私に聞いてきた。

 私は取り合えず考えついた作戦を実行するため、マーナにサンドイッチを渡した。

 マーナは渡されたサンドイッチを不思議そうに見ているので。


「サンドイッチを食べれば、弓の命中率も上がるはずです。

 騙されたと思って食べてみてください、食べ終わったら、影縫の矢を撃てるようにしておいてください」


私の指示にマーナは頷き、サンドイッチを食べ始める。

 私はマーナが食べている間に。


「その間に『ブレッシング』これで少しは当てやすくなると思います。

 それとアベルにも『ブレッシング』これで当たってくれれば隙も付きやすくなると思います」


私はマーナに『ブレッシング』を掛けた後、アベルにも魔法を掛けた。

 私がブレッシングを掛けた瞬間、アベルの動きがこれまでとは違う速さで近づき、鋭い剣戟を放った。

 ワーラントは突然アベルの動きが早くなったため、回避が間に合わなかったのか、左肩から胸の辺りまで切り裂かれた。


先ほどまで手玉に取っていた相手に傷付けられた怒りで、ワーラントは特大の咆哮を放った。

 

「ガアアアァァァァ!!」


ワーラントのその威圧感に、アベルは一瞬動きを止めてしまう。

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