第2話森の木陰亭

私が悩んでいる間に、へインさんは門を閉じ、偉そうな髭を生やした、ちょっと立派な鎧を着た人(上官の人かな?)と話し、時々私の方を向きながら、何か説明してるみたいだった。

私はさっき、へインさんに私の持ってるお金を渡したことで、とりあえず自分の持っているお金が使えるみたいだと分かって一安心。


無一文でこんなよくわからない状況、やってられないわよ!そしてストレージを確認。

とりあえずは無くなってるアイテムは無いみたいね。

 いらないバレンタインイベントのチョコや、ホワイトデーイベの飴、夏イベのスイカやハロウィンイベのカボチャとか、ゴミアイテムまで大量に残ってる。

これで食事できなくて飢え死にはなさそうね。

でもチョコや飴ばっか食べたら、ウエスト回りが気になりそう?でも私ゲームアバターのままよね?もしかして、奇跡の太らない身体を手に入れたのかしら?

そんなくだらないことを考えていたら、へインさんがこっちに手を振りながら近づいて来た。


「やあお待たせ、じゃあ行こうか」


へインさんはそう言うと私の横に並び歩き出した。

私はくだらない事を考えていたお陰か、少し落ち着いて、へインさんの容姿の確認ができるぐらいには、落ち着いたみたい。

へインさんは、明るい茶色の髪を短く切りそろえて、同じ色の瞳には優しい光が見て取れた。

顔にも優しい微笑みがあり、こちらを気遣ってくれていることが見て取れた。

年は20代前半かな、さっきの上官っぽい人よりは若く見える。

私がへインさんを観察しているとへインさんが。


「それにしても、その年で一人旅って大丈夫なの?布教の旅でも普通、司教様と一緒じゃない?」


へインさんの言葉に小首を傾げてから、自分の格好を見下ろして、ああ、と納得した。

今の私の格好は金髪碧眼、10代に見える容姿(メビロ始めたのが5年前だから15の時だ)そして紺色を元に、金糸で刺繍して金の縁取りが入った神官服、この国の宗教がどんな法衣を着るのか知らない

けど、見れば宗教家だって分かるわよね。

 私は服を確認してからへインさんに向き直り。


「私、実は冒険者なんです、宗教には所属していますけど、あまり厳しい規律や布教などはしたこと無いんですよ?」と答えた。


へインさんは頷いてから「でもいくら冒険者だからって一人旅は・・・パーティーはいないのかい?」と心配そうな顔をして聞いてきた。


「パーティーはいたのですが逸れてしまって・・・」と答えるとへインさんは「そうなのか」と呟いた後は、そのことには触れてこなかった。


しばらく歩くと、へインさんは「お、見えてきた。あそこが森の木陰亭だ」と話しかけながら指さした。


へインさんが指さした方を向くと、ベットの絵が描かれた看板が掛かった。

 レンガ造りで4階建ての建物が見えた。


その建物に近づくとへインさんが「ただいま」と声を掛けながら扉を開いた。


私が、え?ただいま?と疑問に思っていると、へインさんは悪戯に成功したような笑顔を見せ。


「言って無かったけど、ここ俺の実家なんだ」と答えながら宿屋に入っていった。


私は乾いた笑いを零しながら、へインさんの後に続くとカウンターから「おとうさん!おかえりー!」と言いながらへインさんの胸に飛び込んでいく、金髪の6歳くらいの幼女が見えた。


心温まる家族のふれあいを眺めていた、私に気付いた幼女は、へインさんから離れ「おきゃくさまですか?」と質問してきたので。


私は目線を合わせる様に屈み「そうですよ」と答えると幼女はカウンターに戻り。


「うけつけしますね、えっと、いっぱく1000ろーんでちょうしょくつきです。おゆうはんはべつに100ろーんになります」と説明してくれる。


そんな幼女を温かい目で見つめながら、へインさんに。


「お子さんですか?」と尋ねるとへインさんは満面の笑顔で「自慢の娘だ」と答え。


「娘は6歳なんだがしっかり者で、ちゃんと家の手伝いもしてくれる。

俺にはもったいない位のよくできた娘だ!宿代の勘定もできるし、受付もしっかりしてくれるし、客の対応も完璧だ!もしアイナの対応に不満を言う奴がいたら、この宿から叩き出して二度と敷居は跨がせない!絶対だ!!」


その後も「アイナは今、親父に料理も習ってる。

この前なんか俺の弁当を作ってくれたんだ!ちょっと歪だったが美味かった。

将来は料理上手になること間違いなしだな」


「アイナは洗濯もできるんだ。

妻のナタリーと一緒に客室のシーツを毎日洗ってくれてる。

干すのはまだ、身長が足りないから妻がやっているが、小さな手で一生懸命洗ってくれてるんだ!それを文句つけやがったら、足縛って4階の窓から逆さ吊りにしてやる!」


私は尋ねてしまったことを、軽く後悔しながら聞いていると、カウンターから助け船が出された。


「もう、おとうさん!おきゃくさんがこまっちゃってるよ。

おきゃくさんは、あたしにまかせて、おとうさんはきがえてきて!」


アイナちゃんの言葉に、へインさんは「あ、ああ」と答えて、カウンターの奥に引っ込んでいった。

それを見送ったアイナちゃんは、私に向き直り「すいません、おとうさん、あたしのことになるとすぐああなちゃって」と困ったように笑って見せた。


アイナちゃんは、仕切り直すように笑顔で「もりのこかげていにようこそ、あたしはアイナよろしくお願いします。

それでおきゃくさま、なんぱくおとまりになりますか?」と尋ねてきた。


私は「ありがとうアイナちゃん、私はマリアこれからよろしくね。

取り合えず一週間ほどお願いしようかな?」


「いっしゅうかんですね、じゃあ6000ろーんです」


笑顔で告げるアイナちゃんに頷き、お金を出そうとしたところで私は、あれ?っと疑問が沸いた。

私は今一週間て言ったはずだけど、請求された代金は6000ローン、一週間なら7000ローンじゃないの?


「ねえアイナちゃん。一週間だから7000ローンじゃ無いの?」


「へ?マリアさんいっしゅうかんは、6にちだから6000ろーんであってますよ?」


私はアイナちゃんのこの言葉を聞いて。

え?此処って一週間6日なの?って心で呟きながら、6000ローン分の大銅貨を出して渡した。


アイナちゃんは、渡された大銅貨を見て「わーこんなまんまるな、だいどうかはじめてみました」と嬉しそうに呟いた。


それを聞いた私は、自分でも1枚大銅貨を出し眺めて。

あんれ?硬貨ってこんなもんだよね?十円玉だって五百円玉だってこんなもんだと思うけど?と首を捻りながら、アイナちゃんに聞いて見る事にした。


「ねえアイナちゃん?硬貨ってこんなもんでしょ?」


私が呟くとアイナちゃんは、大銅貨を握りしめながら、精いっぱい背伸びをして。


「ぜんぜんちがいますよ!このくにのおかねはだいたいぐやぐにゃで、こんなおしろのえなんてかいてないもん」と答えてくれた。


その後アイナちゃんは、カウンターの引き出しの中から大銅貨を出し、私に見せつける様に大銅貨を見せてくれた。

その大銅貨を見た私は、え?これ貨幣なの?ただの銅の塊じゃ無く?て思うぐらい平べったい銅の塊にしか見えなかった。

入市税払った時、片方に乗ってた銅の塊。

重しじゃなくお金だったんだ~と何となく納得して、アイナちゃんの言うことにも納得してしまった。


だってこれじゃ“お金無いから美術品で払います”っていってるような物じゃん。

そりゃ喜ばれるわよね。

そして早急にこの国のお金を手に入れないとと改めて思うのだった。

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