聖女様って呼ばないで
渡海
第1話ここはどこ?
VRMMORPGメビウスロードオンライン、私早乙女 真理亜 (さおとめ まりあ)が一番ハマってるゲームだ。
私は、このゲームがリリースされてからずっとやり続けて、今じゃ大手ギルド、アヴァロンのメイン回復役を張ってる。
ゲームの中の私は、金髪碧眼で巨乳のおっとりお姉さんだ。
このゲーム始めてから早5年になる、その間に2回の転生をして、レベルもカンストしてる。
転生ってのは、レベルをカウントストップまで育てると、また上位職に転職して、レベルも1から育てなおせるシステムのこと。
欲しいレアアイテムも、ギルドメンバーと粗方取り終わっちゃって、次のイベント告知が来るまで暇だから。
始まりの町の前で、地蔵行為に勤しむのです。
あ、地蔵行為ってのは、始まりの町から出てきた初心者さんに、ブレッシングでステータスアップさせたり。
体力ギリギリで帰ってきたプレイヤーの体力を、勝手に回復したりすることね。
お金とか貰うわけじゃ無く、ただの暇つぶしなんだけど、初心者さんには喜ばれるし、頑張ってる人の応援のつもりでやってるの。
今日も始まりの町の出口でいつものように立ってると、一人のプレイヤーが私のことに気付いて近寄ってきた。
「あ、聖女像さんチッス!ブレリジェください!」って声を掛けてきた。
プレイヤーさんが言った聖女像ってのは私のことね、そんでブレリジェってのは、ステータスアップの魔法と体力を少しずつ回復してくれる魔法。
私は言われたとおりに、ブレッシングとリジェネレートを掛けて上げる。
すると、プレイヤーさんは手を振りながら「アザッス!」って言って走って行ってしまった。
それからも、私の前を通るプレイヤーに片っ端から、回復魔法やバフ魔法を掛けまくって、そのたびにお礼を言われたり、お辞儀をする人、体力ギリギリで戻ってきたけど、いきなり体力全快になって驚きながらも、急いで狩場に戻ってく人と、人それぞれの反応を観察して楽しみながら過ごしてた。
遅くまでそうして過ごしてた私は、人通りが途切れて暇になって退屈したせいで、いつの間にかうたた寝をしてしまったみたい。
気が付くと、何時もの始まりの町の入り口じゃ無い、見たこともない町の門が左手に見える、道の端に立っていた。
私は、あれ?何時もの場所じゃない?と疑問に思いながらも。
私は始めて見る馬車に、いつものようにブレッシングとリジェネレートを馬に掛けてみた。
その瞬間、馬は元気になって、さっきの倍のスピードで猛スピードを出し走り出した。
御者をしていたおじさんもびっくりして「う、うあああぁぁぁ」と情けない声を出しながら、暴走する馬車と一緒に道を南の方へ走って行ってしまった。
私はその様子を、唖然となりながら見送り、少しして「凄い、スゴイ!あはははははは」と手を叩いて一頻り笑ってしまった。
機嫌を良くした私は、それから目についた歩きの行商人の人、プレイヤーみたいな皮鎧を着て武器を持った人、リュックを背負った親子や兄弟にまで手当たり次第に回復やバフをかけた。
魔法をかけた人達、凄い驚いて何度も頭を下げてたから、喜ばれてたんだと思いたい。
日も傾きかけて、そろそろログアウトして寝よっかなと思って、ステータス画面を開いた所で、私は違和感に気付いた。
何処を探してもログアウトのアイコンが見つからないのだ!
「あんれ?いつもの場所にログアウトのアイコンが無い?そんなバカな、黒の剣士さんオンラインじゃ無いんだから、そんなはずは・・・」
私はコンソールを開いたまま、その周りを一周した後、上から覗くようにジャンプしたり、コンソールの下に潜り込んで、下から覗き込んでみた。
私がそんな奇行をとっても、一向にログアウトのアイコンは現れなかった。
「え?いつからメビロってデスゲームになったの?こんなアプデ聞いてないよ!運営!!」
私は空に向けてあらん限りの大声で叫んだ、でも答えは一向に出なかった。
相変わらずログアウトのアイコンは出ない、途方に暮れた私はその場に座り込んでしまった。
そうしている間にも日は傾いていく、下を向き座り込んでしまった私の下に、何人かの重い足音が近づいてきた。
その足音は私の前で止まると、私の頭の上から声が掛けられた。
「お嬢さん、もうそろそろ門が閉まる、町に入らないと野宿することになるぞ?町に近いから、野盗もモンスターもあまり見かけないが、居ないとは限らない。
よかったら付いてきなさい」
私は声がした前に、目を向けると、二人の衛兵だろう、ブレストプレートを着て槍を持った男性達が立っていた。
私がノロノロとではあるが、立ち上がると、二人の衛兵は両脇に立ち、私の歩調に合わせて歩いてくれる。
そして、私が何か落ち込んでいるようだと見て取った衛兵さんは。
「トラットの町は初めてかい?この町は観光名所は無いけど、飯はそこそこ旨いから期待していいと思うよ?あ、まだ宿も決めてないよね?宿も紹介してあげるから心配しないでもいいからね」
優しく笑いかけながら、衛兵さんはそう話しかけてくれる。
私は優しい衛兵さんの話を聞きながら、町の名前に心当たりは無いか考えてみたけど、やっぱり聞いたことも無い町名だった。
私は今何処にいるのか知るために、衛兵さんに聞いてみることにした。
「すいません、ここってなんて国なんでしょうか?」
私が国の名前を聞くと衛兵さんは、キョトンとしてから笑顔で。
「ラングギック王国の南の町、トラットさ」と答えてくれた。
やっぱり聞いたことが無い名前、私が質問の答えを聞いて、落ち込んだのを見て。
「貴族はいけ好かないけど、普通に生活する分には問題は無いと思うから」
衛兵さんはしどろもどろになりながら、私を元気づける様に、そう言ってくれた。
衛兵さんと話しながら進んでいて、トラットの町の門の前に到着すると。
もう一人の衛兵さんが、門の横にある詰め所に走り込み、話しかけてくれていた衛兵さんが。
「こっちに来て、手続きするから」と言い私を案内してくれる。
詰め所の前に付くと小窓から、さっき走り込んでいった衛兵さんが顔を出し、笑顔で手招きをしていた。
私が小窓に近づくと「まずこの水晶に手を乗せて、犯罪歴を調べるから。
問題なければ青く光るから、大丈夫怖くないよ」
衛兵さんに言われるがままに、私は水晶に手を乗せると水晶玉が青く光った。
それを見ていた衛兵さんが「問題無し」と呟き、紙に記入していた。
紙に記入し終えた衛兵さんが、顔を上げて。
「えっと、じゃあ名前と通行書を出して。
通行書が無い場合は入市税は500ローンだよ」と言って来た。
私はお金を出そうとして、手が止まってしまった。
私の持ってるお金は、メビロの貨幣で単位はケインだ、だからローンなんて単位知らないし、使えるのかも分からない。
私が停止して額に冷や汗を浮かべながら、青い顔をしていると、衛兵さんは何かに気付いた顔をして。
「お金がないなら、六日以内に払いに来てくれれば捕まらないよ、期日までに払わないと捕まっちゃうけどね」
衛兵さんは冗談半分に、そう言ってきたので私は。
「いえ、お金が無いわけじゃ無いんですけど、貨幣単位が分からなかったので・・・」と答えると。
衛兵さんは困ったように眉を寄せ「中銅貨一枚なんだけど持ってない?」と聞いてきた。
私はストレージから中銅貨500ケインを出し、衛兵さんの手の上に乗せると、衛兵さんは珍しそうに眺め、夕日に当てて色を確認して、天秤を取り出し。
片方に私が渡した500ケインを乗せ、もう片方に見たことの無い、中銅貨だろう銅の塊、たぶん500ローンだろう貨幣を乗せ、重さを量った。
天秤は私の中銅貨の方に傾き、それを見た衛兵さんは頷いて。
「これなら大丈夫だね、でも早めに商業ギルドで換金してもらった方がいいよ」と優しく笑いかけてくれた。
それを見ていた私は、貨幣の単位は違うけど価値はほとんど一緒なのかな?とぼんやり考えていた。
私が考え事をしていると衛兵さんは笑顔で「名前教えてくれるかな?」と言ってきた。
意味が解らず、首を傾げていると衛兵さんは、困った様に眉を寄せ。
「手続きのために、名前を教えてくれるかな?」と改めて聞いてきた。
私が最初に不思議に思ったのは、名前なら頭の上に表示されてるじゃない?何で改まって聞いてくるんだろう?と考え。
直ぐに二人の衛兵さんの頭の上に目をやった。
そこには名前も、体力ゲージも、プレイヤーアイコンも、NPCアイコンもなかった。
私は最初、ログアウトできなくなってることを確認して、メビロが有名なデスゲームになったのかと思った。
でもゲームなら、名前や体力ゲージが頭の上に表示されてないのはおかしいし、プレイヤーアイコンもNPCアイコンもない。
聞いたことが無い土地名なのもおかしい。
私が疑問符を頭に浮かべながら、しきりに首を捻っていると衛兵さんは、何かに気付いたように頷いてから。
「ああ、ごめんね俺の名前はへイン、君の隣にいるのは相棒のヨランだ、よろしく」と自己紹介してきた。
無視するのも失礼だと思った私は「マリアですよろしくお願いします」と簡単な自己紹介をした。
私の名前を聞いたへインさんが、紙に記入して一度頷いてから、笑顔で私の顔を見て。
「ようこそトラットの町へ歓迎するよ」と言ってくれた。
私は「ありがとうございます」と答えると、ヘインさんは笑顔を深くして。
「門閉めたら仕事上がりだから、宿屋に案内してあげるよ、ちょっとまってて」と告げ、ヨランさんと門を閉める作業をし始めた。
私はそんなへインさんの動きを目で追いながら。
これからどうしよう?ログアウトもできない、そもそも此処、ゲームの中じゃ無いよね?どうしたら帰れるんだろう?
悩んでも、答えが出ない疑問を繰り返しながら、運営でも神様でもいいから!誰か説明してよーーー!と頭を抱えるしかなかった。
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