第51話 決闘の条件

 「ん・・・?」


 セリカはピンときていない顔をしている。


 「お前、図書室でオレに暴力を振るった・・・」


 セリカはヨジンの顔をじっと見た。そして図書室で起きたことを思い出した。


 「あぁ、あの時の見本にならない先輩か。」

 「なんだとっ!?」


 ヨジンは制服に付いた砂を叩き落としながら立ち上がった。


 「もう1回行ってみろや、このクソ生意気な女めっ!!」


 ヨジンの怒りの大声に、セリカたちを中心に多くの人だかりを作りはじめていた。


 「ちょっと、ちょっとごめんなさい、すいません・・・。」


 その人だかりをかき分け、申し訳なさそうに謝りながら身を乗り出したのはジェシドだった。


 「シリア君、無事かい!?あ、よかった、やっぱりここだった!セリカ君も一緒だったか!」


 シリアの声を聞いたジェシドも探し回っていたのだろう。2人の姿を確認したジェシドはホッとした。

 しかし安心したのも束の間、ジェシドはセリカたちと一緒にいる人物を見て体を強張らせた。

 

 「あ・・・ヨジン、サリ・・・。どうして?」

 「お前・・・ジェシドか!?今さらイメチェンか!?」

 「え、ジェシドなの、あれ・・・?へぇ~髪型とメガネで随分と印象が変わるわねー。」

 「チッ!落ちこぼれのジェシドのくせにっ!!この2人はお前の連れか!?」

 「そ、そうだ・・・!」

 「ほぉ~、そうか。このチビがオレたちにぶつかってきたんだ。謝罪も無く、更にはまたコイツに暴力を振るわれたんだ!」


 ヨジンはセリカを指さしながらジェシドを睨んだ。


 「シリアは謝罪したと言っている。」

 「オマエはチビの謝罪を聞いたのかよっ!?」

 「聞いていない。でもシリアがウソをつくはずがない。」

 「そんなの、何の証拠にもならないだろうがっ!!」

 「あぁ、確かに証拠はない。同時に、シリアが謝罪していないという証拠も無いのではないか?」

 「屁理屈を・・・!」

 「お互い様だ。どちらにせよ、人の物を手荒く扱う理由にはならないはずだ。シリアの帽子を汚したことを謝ってもらおうか。」

 「ふん!!逆に暴力を振るう理由もならないな!オレを転倒させたことを謝ってもらおうかっ!!」


 話は平行線だ。ジェシドはオロオロしている。


 「セリカ、もういいですわ。行きましょう・・・。」


 セリカの腕にシリアの腕が絡む。その腕は少し震えていた。

 その様子に、セリカはわざと相手にも聞こえるよう、大きなため息をついた。


 「これは失礼した。」

 「セ、セリカ・・・・?」

 「そうだ、後輩なら後輩らしく先輩の言う事を聞いていれば――」

 「まさか実戦バトルクラスの先輩が、あれぐらいの足払いを避けれないと思わなかったんだ。そんなに息巻いているくせに、体術も思考も、さらに戦闘さえも貧相だったんだな。」


 一瞬ポカンとしたヨジンは、すぐに顔を真っ赤にして怒り狂った。


 「はぁっ!?ふざけるな!お前いい加減にしろよ!!ぶっ殺してやる!」


 ヨジンは勢いのままに、セリカに殴りかかろうと突っ込んできた。


 「望むところだ!」


 セリカも応戦するために身構える。

 しかし、2人の間に割って入ったのはジェシドだった。


 「ダメ!ストップ!!落ち着いて!」

 「ジェシド!!お前は・・・邪魔だっ!!」


 ヨジンは思いきりジェシドの頬を殴った。キャァ!、とシリアの声が響くと、ジェシドはそのまま数メートル先まで飛ばされてしまった。


 「ジェシド!大丈夫か!?」

 「修練ラッククラスの奴がチョロチョロと目ざわりなんだよ!この出来損ないがっ!1人で何もできないからって、女やガキと行動するなんて情けねーな!!」

 「貴様、いい加減に――」


 セリカがゆらりと立ち上がる。激憤する空気に息を呑んだジェシドはセリカの腕を思いきり引っ張った。


 「ダメだ、セリカ君!落ち着いて!僕は大丈夫だから・・・!」

 「しかし、このままでは――。」

 「セリカ君とシリア君を巻き込みたくない。それにこの学園内で戦闘は禁止されている。君たちまで修練ラッククラスになってしまう!」


 セリカは拳をギュッと握る。手の平に爪跡がクッキリと残るくらいに強く。


 「ふん、腰抜けが。まぁ、学園内で生徒同士の戦闘は禁止されているしな。

 でもお前にやられっぱなしなのも癪だな。・・・そうだ、学園のルールに則り勝負をつけないか?」

 「勝負?」

 「お前、名は?」

 「セリカ・アーツベルク。」

 「そうか、セリカ・アーツベルク。オレはヨジン・アーセフォンだ。お前に決闘デュエルを申し込む。」

 「決闘デュエル?」

 「あぁ!正式な場所でお前を叩きのめしてやるよ。」

 「セリカ君!!危険だ!君がそんなことをする必要はない!」

 「いいだろう。」

 「セリカ君!!」

 「うるせぇ、ジェシド!じゃぁお前が相手するかっ!?オレはお前でも全然いいぜ!」


 ギラリと光るヨジンの目にジェシドは身体が固くなるのを感じた。


 「いい、私が受けよう。」

 「セリカ君・・・。」

 「よし。・・・そうだな、普通に決闘デュエルするのも面白くない。なにか賭けないか?」

 「賭け?」

 「あぁ。決闘デュエルはお互いにルールや報酬を決めることができるんだ。

 敗者は勝者の言う事を何でも聞くっていうのはどうだ?」

 「セリカ君!そんな賭けに乗らなくていい!」

 「お前は黙ってろよ、根性無しっ!・・・そうだな、お前には散々な目に遭わされたからな。オレがお前に勝ったら、お前は即修練ラッククラス行き。さらにオレが卒業するまでオレの手足となってもらう。ってのはどうだ?」

 「条件が2つあります!卑怯ですわ!」


 さすがにシリアも黙ってはいられないようだ。


 「うるせぇな、チビ!そもそもお前がオレに謝らないからだろうっ!!」

 「チビじゃないし、謝罪はいたしました!!」

 「いいだろう。その条件を受けよう。」


 「セリカッ!?」

 「セリカ君!?」

 「よし、言ったな。二言はねーよな?」

 「あぁ、二言はない。ではこちらの条件を言おう。」

 「おぉ、何でも言えよ。こっちこそ、男に二言はねー。」

 「私が勝ったら、火蜥蜴ひとかげの粉を購入し私たちに渡せ。」

 「・・・は?」

 「こっちはそれだけでいい。男に二言は無いのだろう?」

 「はっ!何を言い出すかと思えば・・・。いいぜ、勿論OKだ。」

 「じゃぁ決定だな。」

 「あぁ!決闘デュエル明日みょうにち正午の演習室にて執り行う。オレが学園に手続きをしておいてやる。――行くぞ、サリ。」


 ヨジンが笑いながら去っていく。

 後ろにいたサリは、ヨジンの後を小走りで追いかけた。

 騒ぎが収まったことを察知した人だかりも、次々と人の流れに戻ってった。

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