第50話 昼下がりの再会

 とある日、セリカとシリアとジェシドの3人は学園内にある大きなマーケットにあった。

 このマーケットは、食料品や日用品など生活で必要な物は何でも揃う学園専用の市場である。

 ここには創造クリエイトクラスが作り出した特殊なアイテムも販売しており、その種類は町の市場より潤沢な為、学園の入校許可証を持った商人たちが買い付けに来るほど有名なマーケットだ。


 「おぉ!こんなに賑わっている場所は初めてだ!」


 市場には露店も立ち並び、あらゆる場所から食欲のそそる匂いを放っている。


 「ジェシドさん、マーケットに何かお買い物ですか?」

 「あぁ、劫火渓谷デフェールキャニオンを通る為に必要なアイテムがもう1つあるんだ。それを見たくてね。」

 「渓谷を越える方法は大丈夫なのか?」

 「あぁ。それについては僕に考えがある。だけど、その方法にはあるアイテムが必須でね・・・。あ、この店を見ていいかい?」


 ジェシドが立ち止まった店はカラフルな外装をしていた。

 棚には見たことの無いアイテムや、どう使うかも分からないアイテムが数多く並べられている。

 セリカとシリアは興味深く店内を見て回っていた。


 「セリカ君、シリア君、こっちに来てくれないか?」


 店内からジェシドの声がする。2人がその声の方へ歩いていくとジェシドが難しい顔をして、あるアイテムを見つめていた。


 「お目当ての物はありましたか?」

 「あったのはあったんだけど・・・。」


 顎に手を乗せジェシドは唸っている。

 セリカはジェシドが見つめるアイテムの名前を口にした。


 「火蜥蜴ヒトカゲの粉?」


 ジェシドが見つめる先には、赤茶色の粉が入った小瓶があった。ラベルに『火蜥蜴ひとかげの粉』と書いてある。


 「これがジェシドさんの欲しかったアイテムですか?」

 「うん。陸路にしろ空路にしろ、現地の気温は50度を軽く超える。だからそれに対応できる装備をしなければならない。じゃないとすぐに体がやられてしまうからね。

 この火蜥蜴ひとかげの粉を装備品や道具に振りかけると、火への防御力が上がり高温の環境にも耐えられるようになるんだ。」

 「まぁ、すごいアイテムですね。」

 「スゴイよね。これは創造クリエイトクラスの発明なんだよ。ただ・・・」


 ジェシドは商品を手に取ってラベルに貼ってある値段を見た。


 「高いんだよね。」

 「高いですわ。」

 「高いのか?」


 シリアも思わず眉をひそめる。


 「えぇ、高いですわ。クエストにはポイントの他に給金も頂けますが、これは実戦バトルクラスのクエスト10回分相当はいたしますわ・・・。」

 「10回分?!」

 「恥ずかしながら、僕にそんな資金力が無くって。やっぱり高いよな、このアイテム・・・。」

 「私の貯めた給金でも足りませんわ・・・。」

 「そもそも僕のクエストだ。必要経費については君たちには出させられないよ。

 仕方ない、違うアイテムを探してみよう。このマーケットだったら代替品があるかもしれない。」


 ジェシドは努めて明るい声を出した。



 店を出た3人は他のアイテムショップを歩き回った。しかし、火蜥蜴ひとかげの粉に変わるアイテムはそう簡単に見つからない。

 店を出るたびに吐くため息が次第に長くなっていった。


 「ないな。」

 「ないなぁ~。」

 「ありませんわね。」


 時間はお昼を少し回ったぐらいか。

 マーケットの人通りも先ほどより多くなっている気がする。

 混雑する中、行き交う人に体を当てないように歩くのが精いっぱいだ。

 特に背の小さいシリアにとってこの人混みは、大きな岩々に囲まれているようなものだった。


 「きゃっ!!」


 その時、シリアの声が聞こえた。さっきまで隣を歩いているはずだったが、人の流れで逸れてしまったのだろう。セリカは咄嗟に声のした方向へ走った。

 人混みをかき分けてたどり着いた場所には、四つん這いになっているシリアの姿があった。しかし、いつも被っている帽子が脱げている。


 「シリア、平気か!?」


 駆け寄ったセリカはシリアの肩を抱いた。

 セリカに目をくれることもなく顔を上げているシリアの視線の先を追いかければ、2人の人影がこちらを見下ろしていた。


 「帽子から足をどけてください!」


 いつもより低い声音にシリアの怒りを感じる。セリカは自分達を見下ろす人物の足元を見た。そこには、砂まみれになっているシリアの帽子が踏みつけられている。


 「まずはぶつかったことを謝れよ。」

 「謝罪は言いました。」

 「聞こえねーよ。オレに聞こえてないのなら、言わなかったのと一緒だ。」


 一緒にいる女性がクスクスと笑っている声がする。


 「帽子から足をどけてください!」


 要求を無視された男性は舌打ちをし、さらに帽子を詰るように踏みつけた。


 「なっ!」

 「命令できる立場だと思っているのか?まずは謝罪が先だと言ってるだろう!?」

 「おばあちゃまの、帽子・・・。」


 シリアが唇を歪め噛んだ時、隣にいたセリカの気配が一瞬消える。そして次の瞬間、バシン!という音がすると、こちらを見下ろしていた男性の体勢が崩れ派手に転倒したのだ。


 「ぐぁっ!」


 あまりにも一瞬のことだった。セリカは体勢を低く保ったまま飛び出すと、両手で自分の体を支え、素早い回転の足蹴りにより相手の足を思い切り払ったのだ。

 砂煙が辺りを舞う。急に宙を舞った男性は受け身がとれないまま倒れ、顔を歪ませた。


 「ちょっと、ヨジン!大丈夫っ!?」


 さっきまで笑っていた女性が顔色を変え男性に駆け寄った。

 セリカは男性の足元から帽子を回収すると、パンパンと砂を払った。


 「セ、セリカ・・・。」

 「大丈夫、破れたりしていない。汚れは一緒に洗濯をしよう。」


 ニコッと笑うセリカは帽子をシリアに被せる。シリアの視界がじんわりとぼやけていった。


 「あ、ありがどう・・・。」


 シリアは涙を見られないように帽子を深く被った。


 「いってーな!何すんだよ、お前――」


 さっきとは逆に、見下ろされる態勢となったヨジンは怒りを爆発させながら吠えた。が、自分の前に立つセリカの姿を見た瞬間、その表情は驚きへと変わっていく。


「お前は、あの時の――!」

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