第40話 魔術師への条件(2)

 「エリス、どうしちゃったのかな~?最近、よく魔法の練習をしているよね~。」

 「水精霊ウンディーネの上級属性変化を練習しているとお聞きしましたよ。」

 「えぇ~~っ!早くない!?エリスは既に水精霊ウンディーの魔法を幾つも使えるのに~!」

 「誰かさんの影響・・・かな?ちょっと無理しているっぽいのは心配だけど、菲耶フェイがいるから大丈夫だろう。」


テオはセリカをそっと見た。セリカは腕を組み眉をひそめている。


 「セリカ~?どうしたの?」

 「いや、大丈夫だ。それより、課題などで得られるポイント数というのは一定なのか?」

 「いえ、テスト結果と実習課題で貰えるポイントは異なってきます。奉仕活動も難易度によってポイントの配分も変わってきますわ。」

 「難易度とかあるのか・・・。」

 「はい。自身が持つエレメントを使って町のお手伝いや雑務をこなせば、それに相当するポイントが得られます。

 早くて簡単なお仕事の内容だとポイント数は少ないですが、危険が伴うお仕事には大きなポイントが得られるようになっていますわ。」

 「田んぼの土作りの手伝いとか、町で上げる花火の火付け役を募集!とかあったね~。」

 「確かに確実にポイントは手に入るけどな。でも、高等部になれば霊魔討伐への参加も認められるんだぜ。もちろん引率の先生付きだけど、戦闘の練習にもなるしポイントも貰えるし、一石二鳥だぜ!」


 テオはその場で拳を何度か突き出して見せる。


 「奉仕活動の内容は、タブレットからも見られるし渡り廊下の掲示板にも貼ってあるから見ておくといいよ~。」

 「分かった。ありがとう。実戦バトルクラスの内容は何となく分かったが、他のクラスの人はどうやってポイントを稼ぐんだ?まさか、創造クリエイトクラスの人たちも霊魔討伐へ参加するのか?」


 まさか、まさか~、と言いながらロイは顔の前で手を振った。


 「奉仕内容はそれぞれのクラスの特性を活かせるように発注されているんだよ~。

 医療メディカルクラスは、その名の通りケガや病気に関わるアイテムや魔法に特化しているクラスなんだ。早く血が止まる薬だったり、ケガの治りを早くする魔法だったりを開発しているんだよ。回復系が得意な人たちも医療メディカルクラスに多いかな~。

 ケガや病気で困っている人への奉仕活動が多くて、ポイントを稼ぎやすいクラスかな。でも、人の命を預かるんだから、それなりに厳しそうだよね~。

 そういえば、この学園内に併設してある医療施設にはその道の権威がいるんでしょ?見たことないけど~。」


 ロイが顔を近づける。


 「魔障痕の研究もしているのも医療メディカルクラスなんだよ。色んな症例を集めてるんだって。」


 周りには聞こえない小さな声だった。

 セリカの頭にはクロウのニヤついた顔が浮かび、自然と顔が歪んでしまう。


 「創造クリエイトクラスは、回復薬ポーションだったり結界石だったり、装備品への強化アイテムだったりと開発系に重点を置いているクラスですわ。

 優れたアイテムを発明してポイントを貰うんですの。」

 「発明が認可され、商品として流通されるようになれば、それだけで卒業できるという可能性を持っているのも創造クリエイトクラスの特徴と言えるな。」

 「実際に試作品として、創造クリエイトクラスのアイテムを私たち実戦バトルクラスが使用することはよくあることですのよ。」

 「へぇ~、そうなのか。じゃあ実戦バトルクラスと創造クリエイトクラスは密接な関係にあるんだな。」

 「そうなんだよ!あいつらのアイテムがあれば、戦い方が無限に広がる可能性があるんだよ!」


 テオの勢いに、セリカは思わず体を仰け反らせた。


 「テオ、はしゃぎすぎ~。」

 「おぉ、わりぃわりぃ。」


 セリカはテオがはめているグローブに目をやった。


 「確かテオのグローブも創造クリエイトクラスの人が作ったとか言っていたな。」

 「おぉ!オレの親友が作ったアイテムだぜ!強化してほしいところがあるから、これから頼みにいくつもりだ!」

 「あ、頼むといえば、オレも医療メディカルクラスの人から被験者として頼まれているんだった!」

 「被験者?」

 「うん、ここのね!」


 ロイは左腕を指さす。


 「レポートに協力してくれっていう医療メディカルクラスの人がキレイでさぁ~。パパッと協力してデートにでも誘ってみるつもり~!じゃぁね~!!」


 ロイはウィンクしながら小走りで教室から出て行った。


 「相変わらずだな、アイツは。オレも創造クリエイトクラスに行くか。セリカ、勉強に付き合えなくて悪いな。」

 「私も新しい式神を使役する準備がありますの。ごめんなさい、セリカ。」

 「全然構わない。色々教えてくれて礼を言うよ。」

 「図書室に様々な文献がありますわ。追試の資料もあると思いますよ。」

 「分かった、行ってみる。」


 テオとシリアに別れを告げたセリカはクロウの言葉を思い出していた。


 『その傷で困ったら遠慮なく来なさい。力になれると思うよ。』


 胸の魔障痕が軽く疼き始める。その疼きを黙殺したセリカは図書室へと足を向けた。

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