第39話 魔術師への条件

 「ここまでとは。」

 「信じられませんわ。」

 「こんなの見た事ないよ~。」

 「驚愕。」


 セリカの机を囲んだシリアたちは目の前に広げた紙を見て口々に感想を述べた。

 席の中央には腕を組んだセリカが座っている。

 机の上には平均点を大きく下回る答案用紙が何枚も広がっていた。


 「ひどい点数だな・・・、これ。」

 「完全追試対象ですわね。」


 答案用紙を手に取ったシリアとテオはため息をもらした。


 「ふぅむ。」

 「ふぅむ・・・じゃないよセリカ~。テストボロボロじゃん!」

 「あぁ、全く理解できなかった。」

 「理解できていないなら一緒に勉強しましたのに・・・。」

 「一緒に勉強?」

 「それすら思いつかなったって顔ダナ。」

 「あぁ、そんな経験はない。」

 「あれだけの魔法が使えるし、授業も涼しい顔して受けていたから余裕だと思っていたぜ。」

 「魔法は感覚だ。授業は分からない単語で溢れていた。」

 「あれは固まった顔でしたのね。」

 「ふぅむ。ここまで難解だとは・・・。」


  しかしこの場で腕を組み、眉をひそめたのはセリカだけではなかった。


 「ちょっと!何で私が呼び出されているのよ!?」


 そこにはエリスが仁王立ちをして睨んでいる。


 「だって~実戦バトルクラスで成績が一番いいのはエリスじゃん。」


 「それがどう関係あるのよ!?」

 「勉強を教えてやれよ、エリス。」

 「な、何で私が・・・。」


 歯切れの悪いエリスの様子にロイがテオに耳打ちをした。


 「エリスってセリカが苦手なの?」

 「う~ん、あれはセリカの考え方ややり方に戸惑ってる・・・って感じかな。」

 「ふ~ん。」


 その空気はセリカにも伝わったようだ。


 「問題ない。1人でできる。」


 根拠のない自信を振りまくセリカにテオが口を出した。


 「いやいや、さすがにこの点はまずいだろ。実戦バトルクラスの追試者はお前だけだぞ、セリカ。」

 「それに、追試の点数も悪ければポイントも貰えませんわ。」


 その言葉にセリカがピクッと反応をする。


 「聞こうと思っていたんだが、そのポイントとは何だ?ライオス先生も言っていたが・・・。」

 「あなた、そんな事も知らずにこの学園に来たの?」


 エリスは呆れた声を出した。セリカはコクコクと頷いている。

 机に広がった答案用紙を片付けながらシリアが口を開いた。


 「このサージュベル学園は普通の学校と違ってポイント制を導入していますの。授業を受け、単位を埋め、テストで点を取れば進級や卒業できる学校とは違い、各々がポイントを所持していないと進級はおろか、退学になってしまうのがこの学園の規則ですの。」

 

 セリカは首をかしげた。


 「そもそも、この学園には実戦バトルクラスと創造クリエイトクラスの他にもクラスが存在するのか?」

 「あとは医療メディカルクラスがありますわ。

 私たち高等部は2年制です。ですが最短2年で卒業できるということになっています。」

 「最短?」

 「えぇ。それぞれのクラスには1年のうちに取得しなければならならないポイント数があるんです。そのポイントを2年生になるまでに所持していないと進級ができず、修練ラッククラスに入ることになります。」

 「修練ラッククラス?」

 「まぁ、留年ってことだね~。落ちこぼれのクラスってこと!」


 手を頭の後ろで組み、飄々とロイが頷く。


 「ロイッ!」

 「おっと。」


 シリアが窘めるとロイは慌ててテオを見上げた。テオは難しい表情をしている。

 咳払いをしたエリスが、自分のノートに分かりやすく図を描いて見せた。


 「いい?通常だと『実戦バトルクラス1年生→実戦バトルクラス2年生→卒業 魔術師ウィザード検定→魔術師ウィザード』になるの。→《やじるし》の部分には必要なポイントと検定合格への合否が入るわ。

 でも修練ラッククラスに入ると、『実戦バトルクラス1年生→修練ラッククラス→実戦バトルクラス2年生→卒業 魔術師ウィザード検定→魔術師ウィザード』という風に3年在学することになるの。」

 「なるほど。最短2年で卒業というのはそういうわけか。でも修練ラッククラスに入ったとしても、またポイントを持てばそれぞれのクラスに戻れるのだろう?簡単じゃないか。」


 セリカはエリスが書いた修練ラッククラスのところに赤線を引く。


 「そう思うわよね。でもね、修練ラッククラスが次の2年生のクラスに戻る時は、通常のクラスで所持しないといけない2倍のポイントが必要なの。」


 エリスはセリカが持っていた赤いボールペンを取り、修練ラッククラスの下に『2倍のポイントが必要』とつけ加えた。


「2倍・・・。条件がさらに厳しくなるのか。」

「そうよ。さらに修練ラッククラスでも所持ポイント数が足りていなかったら、問答無用で退学になるわ。2度目の修練ラッククラスは無いってことね。」

「ポイントはどうやって得られるんだ?」

「テストの結果と課題はもちろん、学園に貢献する奉仕活動などでポイントは得られますわ。テストの順位もポイント加算されますし、今回の『Twilight forest(静かなる森)』の実習もその対象でしたの。だからそれが無効となってしまったのはちょっと痛手ですわね・・・。」

 「じゃぁ、ジン先生が言っていたラピス結晶を持ってこられなかった奴は転科っていうのは・・・?」

 「即行、修練ラッククラス行きってこと!」


 ロイは手刀で自分の首を切る仕草をした。


 「そんなに厳しい実習だったのか・・・。」


 何も考えていなかったとはいえ、自分の考えの浅はかさにセリカは肝を冷やした。


 「当たり前じゃない。この学園は優秀な魔術師を輩出する為に存在しているのだから。学習内容は難解で、実習だって厳しいと有名だけど、厳正で精錬された卒業生にはそれだけの価値と肩書きが得られる。魔術師ウィザードへのエリートコースがこの学園なのよ。」

 「エリスのご両親はこの学園の卒業生なんだ。ね、エリス。」


 菲耶フェイがエリスの肩に軽く手を添えた。


 「へぇ。エリスのご両親はすごいんだな!」


 セリカは羨望の眼差しを向ける。その視線はエリスの表情をこわばらせた。


 「べ、別に! 両親と私は関係ないわ!それより、もういいかしら?私、自習したいから! 菲耶フェイ、今日も付き合って!!」

 「承知・・・。」


 そう言うと、エリスと菲耶は教室から出て行ってしまった。

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