この広い星空の下で
柊みさき
この広い星空の下で。
今日は七夕。ここは、とある地方の山々に囲まれた田舎町。
この町では、七夕の夜、毎年、夏祭りが開催され、
前夜祭には、花火大会などもあり、
町の中心にある大きな神社の境内には、屋台も多く出て、
普段は閑散とした田舎町も、
この日だけは、里帰りの家族連れや観光客などで、町も盛り上がる。
そして今、この物語の主人公で、高校3年生の女の子、
大好きな幼馴染で、片想いをしている同級生の男の子、
「あ、河上君っ!金魚すくいやろ?金魚すくい!」
「うん、いいよ」
「すいませーん、金魚すくい1回、いいですかー?」
「あいよ、一回300円ね」
そう言われると、綴は、巾着袋に入ってる財布から小銭を出し、屋台のおじさんに手渡す。
「綴、金魚すくい得意だっけ?」
「んー?得意とかそんなんじゃないけど、お祭りだからねー」
「そんなんでいいの?」
「いいじゃん、お祭りなんだからっ!」
「300円、無駄になるんじゃ……」
「確か、去年も1000円くらい無駄にしたよな?」
「あーもう、うるさいわよ!じゃあ、暢君にこのポイあげるから、私の代わりに金魚、5匹くらい取ってみせてよ」
「えぇ?!何でそうなる」
「だって私、暢君が金魚すくいしてるトコ、子供の頃しか見たことないもん」
「わ、分かった。金魚、5匹とりゃーいいんだなぁ?よぉし、やってやらぁ」
と、暢が意気揚々と浴衣の右袖をまくり、ポイを上にあげ、水槽にポイを入れたと同時に、大きな声が聞こえた。
「あー!!暢と綴、七夕デートしてる~!!」
と言う声に、暢は、思わず勢いで、バッシャーんと勢い良く、そのポイを水槽の中に入れたものだから、ポイの布は破れてしまった。
「だ、誰だよっ!!金魚すくいの邪魔したのはっ?!!」
と、振り向くとそこには、同じ高校に通うクラスメイトの女子2人が立っていた。
「何だよ、お前らか……。ったく、これから綴の前でいいトコ見せようとした瞬間だったのによー、お前らのせいでポイ、破れちまったじゃねーか」
「えー?私らのせい?!」
「弁償しろ、べ・ん・しょ・う!!」
「わーかったわよぉう!弁償すりゃいいんでしょ?おじさーん、ポイ、もう一個ね」
「あいよー」
そう言って、女の子の一人が、新しいポイを暢に手渡す。
「ってか何で暢が金魚すくいなんてやってんのさ?」
「ん?いや、こいつにな、昔から金魚すくい下手だ、って俺が言ったんだよ」
「はぁ」
「それでだ、綴のヤツ、"じゃあ、そんなに言うんだったら5匹くらい取ってみせてよ。"って言うもんだからさ……」
「あぁー……で、河上君がポイ持ってたんだー」
「でだ、まさに金魚をすくいあげようとした時に、お前らが大声出したから、こうなってるわ・け」
「ごめーん」
「まぁ、弁償してくれたからいいさ」
「ってか私らも見たーい。河上君が金魚5匹くらい取るトコ」
「よ、よぉっし、オトコ・河上暢。今から幼馴染の綴の為に、金魚5匹、取りまーす!!」
「よっ!!オトコだねぇ!!」
「ファーイトっ!!」
と女子たちから言われ、再び浴衣の袖をめくって、ポイを高くにあげる。
そして、慎重に、そーっとポイを水槽に入れようとし、自分の近くで0泳いでいる赤い金魚を目掛け、
その金魚をゆーっくりとすくいあげ、水槽に浮かんでいる小さなプラスチックのお椀の中に、「てやっ!」と言って、すくい入れた。
「よぉっしゃぁー!!まずは一匹、ゲットぉ~!!」
「おぉー!!」
「おめでとう!!」
「すごいすごい!!」
「どうだ?綴?!俺もやるときゃやるだろ?」
「はいはい。オトコオトコ」
「なんだよ、それ」
「ってか、まだ1匹じゃん。あと4匹だよ」
「わぁーってるよ。やりゃいいんだろ?」
「うん」
「よぉっし、じゃあ、第二段、いっくぜぇー!!」
「ねぇ、河上君!なんだよ」
「リクエストリクエスト」
「はぁ?」
「出目金取ってよ出目金」
「なぁんでお前らからリクエストされにゃならんのだ」
「いいじゃん。それとも出目金は重くて取れないの?」
「う、うるさいな、よぉっし、吠え面かくなよ?見てろよー……」
と、暢は、水槽の真ん中辺りをゆっくり泳いでいる黒い出目金目掛けてポイをそーっと水槽に入れ、すくいあげようとした瞬間。
突然、「ドーンっ!!」と言う音がしたので、それにビックリした暢は、その勢いでポイをバッシャーンと、水槽の中に突っ込んでしまった。
「こ、今度は何だ??!!」
「あ、花火大会始まった」
「た、たくよー……なんなんだよ、今日は。厄日か?」
「ねぇねぇ、河上君たちは花火観に行かないの?」
「由紀、何を野暮なこと言ってんのよ」
「は?」
「2人の邪魔しちゃ良くない、って言ってんの」
「あ、そうか。ゴメン」
「なんだよ、それ」
「じゃ、じゃあ、邪魔者は退散するから、お2人もお祭り、楽しんでねー」
と言い、クラスメイトの女子2人は花火大会の方へと消えて行った。
取り残された金魚すくいの屋台では、おじさんが2人に話しかけていた。
「兄ちゃんたち、どうするね?まだ続けるかい?」
「綴はどうしたい?」
「んー……。いいや、暢君、一匹取ってくれたし。おじさん、その一匹捕まえた金魚、ちょうだい?」
「あいよー、ありがとねー!!」
「わぁい」
そう言って綴は、おじさんから金魚が入った透明のビニール袋を片手に、ルンルンと笑顔で歩いていた。
その境内。
2人はこれからのことを話していた。
「ねぇ、暢君?」
「なんだよ?」
「暢君は、卒業したらどうするんだっけ?」
「俺?」
「うん」
「あれ?お前に話してなかったっけ?」
「聞いてないよー」
「そっか」
「なぁによぉー?」
「俺な、卒業したらイギリスへ留学するんだよ。」
「えー?!い、イギリスへ?」
「うん」
「ど、どれくらい?」
「分かんね」
「分からない、って」
「それって、大学?」
「あぁ」
「そっか、暢君、英語の成績、学年トップだもんね」
「まぁな。で、親父が薦めて来たんだよ」
「おじさんが?」
「あぁ。何でも向こうに、昔から親しい友人が居るから、そこの家でホームステイさせてもらって、ロンドン市内の大学通え、ってな」
「そっか……」
そう言って綴はしばらく下を向いて黙り込んで、2人の間にはしばらく沈黙が続いた。
その間にも、花火大会は進行し、何発もの花火が上がり、会場の方からは、歓声が聞こえて来ていた。
それから数分して、綴が一言。
「ね、ねぇ、暢君?」
「なんだよ」
「いつもの、私たちだけの特等席行って花火、見ない?」
「あぁ、あそこな。うん、いいよ。イギリス行ったら、しばらくこの町の花火も見れないしな」
「うん」
「なぁ、久しぶりに手、繋ごっか?」
「え?あ、う、うん、いいよ」
そうして2人は手を繋いで、神社の境内から出て、暗闇の中を歩き、
花火が綺麗に見渡せる2人だけしか知らない穴場まで歩いて来た。
花火は、相変わらず、ドーン・ドーンと、大きな音を立て、何発も打ち上げられていた。
「うわー、綺麗だね!何だか今年の花火、今までよりもより綺麗に見える」
「そっか?いつもと変わんなくね?」
「なによ、その言い方」
と、綴がそう言うので、暢が綴の方を見ると、綴は、花火を見ないで、うつむいて泣いていた。
「ちょ、お、おま、な、なに泣いてんだよ!!」
「だって、だって。暢君、春からイギリス行っちゃうんだよ?」
「あ、あぁ」
「もう、会えないんだよ?」
「はぁ?」
「会えないわけなかろうに。別に遠い宇宙へ行くわけじゃないんだからさ」
「でも、イギリスって、ヨーロッパじゃん!日本の裏側なんだよ?」
「だから、何だよ」
「幼稚園の時からずーっと一緒にこの町で育って来て、17才まで隣に居てくれた人が、いきなり、"俺、卒業したらイギリス行くんだ。"だなんて言われたらさ、ショックに決まってんじゃんかっ!暢君は、私と離れるの、嬉しいの?」
「はぁ?そんなの、嬉しくないに決まってんじゃん!俺だって、お前とずっと、離れたくなんか、無いさ……」
「暢君?」
「何だよ」
「私、昇君のこと、ずーっと昔から好きでした」
「は?」
「もーうっ!察し悪いっ!今、告ってんの!!」
「こ、こくは、く?」
「そうよ」
「昇君が、どんなに遠いところへ行っちゃおうとも、私は、昇君と過ごしたこの17年間のことは忘れないし、いつまでだって愛してる」
「お、おま……」
「暢君が、何年くらいイギリスに留学するか、とか分かんないけど、私もいつか、暢君に会いにイギリスに行くよ」
「来てくれるのか?」
「あったりまえじゃん!」
「私、暢君のこと、誰よりも愛してるもん!!」
「そっか、ありがとな、綴。お前の気持ち、凄く伝わったから。俺も、俺もお前のこと、大好きだよ。他のどんな女より、誰よりも、だ」
そんな、告白タイムをしていた間、気が付けば、いつの間にか花火大会は終わっていて、辺りはシーンとなっていた。
そして、暢は、綴の身体をそっと抱き締め、綴の唇に、優しくキスをした。
綴も、自然と暢のキスを受け入れた。
そのキスは、2人にとっても甘い甘いファーストキスだった。
キスは、約5分続いた。
「ふぁ……」
「ふぅ……」
先に唇から離れたのは暢だった。
「綴?」
「ん?」
「イギリスに行くこと、黙っててごめんな?」
「ううん、いいよ、さっきちゃんと教えてくれたから」
「ごめんな」
「ううん、大丈夫。私、暢君がビッグになって帰って来るの、いつまでも待ってる」
「そうだな。それに、全然連絡取れなくなるわけじゃないしな」
「うん」
「俺も、パソコン持ってくし、ネットのSNSでも連絡取り合えるし、スマホでLINEだって出来るんだし」
「そうだね」
「お前もさ、来年の夏休み、イギリスに遊びに来いよ」
「えぇ?!」
「来たくないか?」
「い、行ってみたいっ!イギリス!」
「じゃあ、俺、お前が来るの、待ってるからさ」
「うん、ありがとう」
「ふぅ~……」
と、綴が一息入れ、夜空を見上げると、もの凄い数の流れ星が流れていた。
「ちょ、暢君っ!そ、空っ!!空を見てっ?!!」
「空?」
と、暢が何気に綴に言われるがままに、夜空を見上げると、無数の流れ星に驚いた。
「ちょ、こ、これって、流星群、ってヤツだよな?」
「そ、そうよ、流星群だよ!」
「すげー……初めてみたかも。」
「凄いねー……あ、願い事しなきゃ!!」
「願い事って、流星群でも叶うのか?」
「叶うんんじゃない?だって、同じ流れ星なんだし」
「まぁ、そんなもんか。で、綴は何を願うんだよ」
「なーいしょ」
そう言って綴は、心の中で、「いつまでも暢君と同じ時間を過ごせますように」と、願っていた。
そして2人は、しばらく終わることのない流星群をずっと見ていた。
~end。
この広い星空の下で 柊みさき @hiiragi-misaki
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