とても憎悪
夢見人
妊娠
少し前、私が生まれて間もないころの話をしよう。
まだ私が、あいつと出会っていないときの話。
そして、あいつと出会う話。
私の生まれは、平安時代。流行病が始まる二年前に産まれた。
なんせ千二百年前の話だから細かいところまでは覚えていない。
私は生まれてすぐに妖怪退治の専門家になった。
そしてあいつと出会い、不老となり、同期の巫女がいなくなっても存在し続ける理由ができた。
誰も救われなかった話をしよう。
走った。走った。暗い森の中ただひたすら走った。
こんなことになるんだったら早いうちに帰るんだった。
この森には人食い妖怪が出る。
見つかったら喰われる。
恐怖で心がだんだん麻痺してくる。
「明かりだっ……!」
今の私にはそれが希望の灯に見えた。
あそこに行ったら人がいる。そんな希望を抱いた。
突然視界が開けた。
森の中にある開けた場所に出たらしい。
明かりに見えたそれは青く煌々と光る火だった。
言い伝えで聞いた内容を思い出す。
青い火は人食い妖怪が人間を誘い出すための火。
思いだした瞬間私の意識は途切れた。最後に見たのは絶望の光だった。
「森に人食い妖怪が出る?」
「はい、そうなんです。今では誰も森に入らなくなってしまって……」
「それだったらもう被害は出ないじゃない」
「いえ、どうしても入らなくてはいけないときがあって……難病に使う薬草があそこにしか生えていないのです」
奇妙な話だ。私はそう思った。
人食い妖怪が森で誘い漁のように人を迷わせて喰うなんていちいちめんどくさいことをするのだろうか。
作り話の怪談ならそちらの方が雰囲気は出るが現実の妖怪がそんなまどろっこしいことはしないはずだ。
「なので是非桜花様に退治していただきたくて……」
私に恭しくお願いしているのは村の村長だ。
正直に言って私の依頼料はとても高い。
それを先払いするなんて言っているから冷やかしではないのだろう。
ただなんでもかんでも妖怪のせいにしてはいけない。
単に森が迷いやすい構造になっている可能性もあるのだから。
「わかりました。では先に本当に妖怪がいるのか確かめてから依頼料はいただきますね」
「宜しくお願いします」
そんなこんなで村長との話は終わった。
妖怪がいるかどうか確認するのは直接会うのが楽だが、人食い妖怪ならば専門家に対する防衛意識も高い。
簡単にはいかないだろう。
でも森の中に何かあるかもしれない。
森の中を探索すればなにか手掛かりが見つかるかもしれない。案外人食い妖怪なんておらず迷ってそのまま死んでいるかもしれない。
そうならばいちいち高い退治量を払わずに調査料だけもらえばいい。
今後の方針は決まった。さっさと森の中に入って調査を始めよう。
森の中は予想以上に暗かった。木々が生い茂っているのもあるのだろうがそれだけではない別の理由がありそうだった。
迷わないように木に印をつけながら進む。
同じ風景ばかりで自分が本当に進んでいるかわからなかった。
少し歩いたところで違和感を感じた。
(この木印が付いてる……)
私はもしかしたらすでに敵の罠にかかっているのかもしれない。
私はこのような依頼を何度も受けている。
だから同じ場所をぐるぐる回るようなミスはしないはずだ。
「結界探知」
私は技術を使い結界を探す。
あった。そっと迷わす進路妨害の結界。
張られてから間もないものだった。
おそらく私が専門家と気づいたのだろう。
出来合いの結界だった。
「まったく、私を誰だと思ってるの?」
結界は必ず隙間が生まれる。そこを突けば結界からは簡単に抜け出せる。
でも私に気づいて結界を気づかれずに張るなんて。
「思った以上に厄介ね」
結界から抜け出し痕跡を辿ったが途中できれいさっぱりなくなってしまっていた。
日も傾き始めていた。
「今日はここまでね。明日退治に向かいましょう」
帰りは結界を破っていたので驚くほど簡単に帰れてしまった。
森を出たころには日は沈んでいたので、明日また来て村長に報告してから退治しよう。
私の拠点はあちこちに存在している。
少し前の流行病から依頼が増えいろんなところに拠点が散らばっているのだ。
私は村から三十分の拠点を借りて雨露をしのいでいる。
明日はおそらく戦闘沙汰になるから武器の整備に取り掛かる。
私の本職は巫女なので札や大幣を扱っている。
札は動きを封じ込めるものから精神に干渉するものまで、いろんな種類を取り扱っている。
霊力をその場で込めて使うので素人には扱えない。
大幣は霊力を扱い具現化し飛ばすものだ。
「全部きれいな状態ね。さすが私」
とても憎悪 夢見人 @tetora12
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。とても憎悪の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます