これから僕は縛り付けて

 朝日が昇るころ、僕たちは駅にいた。

 昨夜のことはすべて夢だったのだろうか。と淡い幻想を抱いてみたが横に立っている少女によってその幻想は打ち破られる。

 少女はここから離れるための切符を買っていた。

 あの後僕たちは一度僕の家に帰り、シャワーを浴びたりご飯を食べたりしていた。

 自分の両親を殺した男が作ったごはんを少女は。

「私、目玉焼きは半熟がいいんだけど」

 なんて文句を言いながら食べていた。正気ではない。

 少女は僕の家にあった黒Tシャツとジーンズを袖を折ったりしてきている。かなりぶかぶかだ。

「行くよ」

 少女に手を引かれ改札を通り、電車に乗る。

 向かい合う形の座席に座り、少女ははにかむ。

「なんだかお兄ちゃんといるみたい」

 とぼやいた。訳が分からない。

 電車が二駅過ぎるころまでお互い無言だった。

 外の景色をぼんやり眺めていると少女が口を開いた。

「これからのことなんだけどさ。今は都会の方に向かってるの。私、都会に行ってみたかったんだあ」

 僕は何と答えればいいかわからなかった。

「ねえ。ずっと黙ってないで何か言ってよ。そんなんだからもてないんだよ。どうせ同い年の女の人といる時もそんな感じなんでしょ?」

 完全に脳内ピンク色の女子中学生だった。ただこのまま黙っているのもしゃくだった。

「余計なお世話だよ。それにこういう時何て答えればいいのさ」

「さあ?知らない。適当に話し合わせればいいんじゃない?」

 乗客は他に誰もいなかった。景色が段々後ろに滑っていく。

 少女は目の前でなにか考えているかのように目をつむって腕を組んでいた。

「ねえ。私あなたのことなんて呼べばいい?よく考えたら私達お互いの名前も知らないだよ?」

 確かにそうだった。昨夜はずっと忙しくてお互い話したことは目玉焼きの焼き方だけだ。

「なんでもいいよ」

 出来るだけ素っ気なく言ったつもりだった。

 やはりこの少女は薄気味悪かった。できるだけ話したくない。きっとどこかで飽きて僕をおいていくだろう。その時は素直に警察に行けばいい。

 そんなことを僕は考えていた。

 僕は性格が悪いのだろうか。そんなことをふと思った。

 しかし少女は性格は悪くないらしく無邪気に言う。

「じゃあお兄ちゃんって呼ぼう!」

 そんなことを言う少女を僕は心底怖かった。

 昨日からこの少女は常識はずれで的外れだった。

 このままこの少女に乗せられるのは嫌だったから少し反抗してみることにする。

「お兄ちゃんはやめて」

「んー、じゃあ」

 なんて言いながら、少女は僕の呼び名を考える。

「折角だからかっこいいのがいいな。じゃあさ、ドックなんてどう?」

 犬。僕はそんなに従順な犬に見えるのか。それじゃあまるでコードネームだ。

 だけどこれ以上この少女と話しているのも疲れるのでここらへんで会話を打ち切ることにした。

「それでいいよ」

「じゃあ私の子とはリードって呼んでね!」

「その名前の意味は?」

 純粋に興味がわいて聞いてしまった。

「さっき私が手を引いて連れてきたから」

 飼い主とペットってことか。ペット扱いされるのはあまり気分がよくないが今更取り下げるのもエネルギーを使いそうだったので何も言わなかった。

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これから僕は逃げ出して 夢見人 @tetora12

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