花火イベントとトラブル

「はいOK! お疲れさまです!」


 ぴよぴよさんから、完了の合図を受ける。

 

 はあっ、と、オレたちは深く息を吐いた。


「こんなんで、よかったんでしょうか?」


 不安になって、オレはぴよぴよんさんに確認を取る。


「見た目には、盛り上がっている風に見えました。OKですよ」


 OKなのか。だったらいいけれど。


「なんか、しまらなくないすか?」


 マヒルちゃんは、不満げだ。


「もっと色っぽい会話を、期待していたんすけど」

「いや、これでいいんだ。男女の会話って、『自分がリードしないと』とか、『自分がお話を繋げなきゃ』とかって思っている人ほど、会話が続かなくなるんだ。いっそ共通の話題を探して盛り上がった方がいい。誰かと仲良くなるには、一緒にいる時間の方が大事なんだ」


 ぴよぴよさんがフォローしてくれる。


「確か大学でも、『親友になるためには、二〇〇時間は共に過ごす必要がある』と学んだっけ」


 イーさんも、納得していた。


「ぴよぴよさんも、そうでした?」

「うん。ボクたちはどっちも絵を描くでしょ? 気に入った絵師さんとかの話題が豊富なんだ。共通の趣味があるのはいいことだよ」

「好みが合わなくて、ケンカしたりしなかったんですか?」


 あまり同じ趣味がかち合いすぎてはカップル仲が悪くなると、よく耳にするが。


「しょっちゅうさ。でもボクはロボや乗り物、萌え絵に寄ってるし、家内は渋めなタッチとモモンスター系が好きだから、深刻な対立にはなりづらいんだ」


 そんなもんかねえ。 


 あと、ゲーム画面は映さないという。キャラを特定されてしまう可能性があるからだ。

 


「では社長、最後は花火大会を映しましょうか」 


 まずは、浴衣を選ぶところから始める。


 レンタルショップへ向かい、ひめにこに似合いそうな生地を探す。


 ひめにこ用の浴衣を探している間、他のメンバーは着替えを終えた。


「どれが似合うと思う?」


 イーさんの質問に、オレはすぐに返答する。


「このおとなしめな浴衣なんでどうだろう?」


 オレは、花火が柳のように舞うシックな柄を選んだ。


「その心は?」

「派手なチョイスだと、ひめにこのビジュアルが浮くんだよ」


 ひめにこは基本、バストアップだけを映す。あまり着飾ってしまっても意味がない。

 かといって、それを見越して豪華な浴衣の生地を選ぶと、今度はせっかくのひめにこらしさが消えてしまう。


「ひめにこの美しさに、どうあっても浴衣が負けてしまうと?」

「だな。『浴衣を着ていますよ』程度の衣装が一番いいと思う」

「しかし、ひめにこなら個性的な柄を選びそうだが?」


 水鉄砲やら風船やらをアップリケ帳に散りばめた水色の柄を、イーさんは選ぶ。


 オレも、「変な浴衣の方が、ひめにこらしいかな」って迷った。たしかにひめにこなら、こんな男の子が好きっぽい絵柄を選びそうである。


「けどさぁ、オレたちはあまりにも『宇宙人である設定』にこだわりすぎてるんじゃないか。そう思うんだ」


 奇抜であればいい、というもんでもない。「着物そのものが珍しい」って方向性に持っていけないか。そう思えた。


「普通が一番だと?」

「花火を見る以上、設定は夜だしな」


 納得してもらえるように、解説を終える。


「キミらしい、奥深い意見だ。では、この衣装にしよう」


 オレが選んだ浴衣を持ち、イーさんは更衣室へ。


「あれっすか? 変な浴衣を着て隣に立つなってことではなくて?」

「それは違うよ、マヒルちゃん」


 デートなんだから適度な服装で来い、って言われれば、オレのほうがアウトだろう。


「ひめにこ的には、あれが一番似合うよ」


 自分用のレンタル甚平を受け取って、オレも着替えを済ませる。


「どうだろうか?」


 更衣室から出ると、浴衣を着たイーさんが迎えてくれた。


「すごく似合ってるよ、イーさん」

「ありがとう。ハナちゃん」


 こころなしか、イーさんがオドオドしているように見える。


「どうしたんだ?」

「照れてるんすよ。好意を持った相手に褒められて」


 イーさんが、飯塚社長がオレに好意を? まさか。


「とにかく行こう。花火が始まっちまう」


 とくに、今日は小さい子どももいる。花火は楽しみに違いない。



 ……と思っていたオレがバカだった。



 梶原親父娘は縁日に直行し、花火そっちのけで遊んでやがる。


「ほらほらアンちゃん、赤と緑の花火が上がってるよ。きれいだねぇ」

「今忙しい」


 おおう……。

 

 すっかり父親と射的で盛り上がっていた。

 オレがいくら花火が打ち上がる空を指差しても、関心を示さない。


「すいません。こんな夫と娘で」


 ご時世的に夏休みを減らされたので、アンちゃんは遊べるうちに遊びたいのだとか。


「こちらは私が見ています。お二方は楽しんでらして」

「あたしも混ざる! お二人はしっぽりと!」


 マヒルちゃんも、梶原さんの隣でライフルにコルクを詰めだす。浴衣の裾を男らしくまくりあげ、ミニ浴衣みたいにしていた。


「では、ボクたちだけで撮影を……おやおや」


 今度は、ぴよぴよさんの赤ちゃんが泣き出す。これだけ騒いでいたら、眠れないのかも。


「すいません花咲さん。花火の映像はスキを見て撮っておきます。デートシーンは、お任せしても」

「そうですね」


 スマホさえアレば、撮影には困らない。


「行こうか、イーさん」


 オレたちだけで、縁日を回ることに。

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