疑似デート後半戦は、二次元で

「お見事でした。いい絵が撮れましたよ!」

「さすが花咲さんね。事前に練習してきたみたいに、手慣れていたわ!」


 超高速編集を終えて、あっという間にメンバー用動画のアップは終わった。


「次は、ベンチでお話するシーンを撮りましょう」


 続いて、オレと社長は道の駅まで戻る。ベンチに座って、おやつタイムになった。恋人同士が語らう場面を撮りたいそうな。


「このイチゴクレープだが、オーソドックスながらうまいな」

「緊張しているときは、ベタなスイーツに限るぜ」


 まったりしすぎな空気が、オレたちの間に吹き抜けていく。


 よりにもよって、二人とも同じクレープを買ってしまうとは。なぜ違うモノを頼まなかったのか。食べさせたいとかできただろうに。テンパってるとダメだな。トッピングすら同じというダメっぷりである。


「コーヒーに合うなぁ」

「合うなぁ」


 しかしまあ、話題が出てこない。こんなとき、恋人同士なら何を話すんだ?


 オレはゲーム指導の時こそ饒舌に語れても、女性のエスコートに関しては素人以下なのである。


 社長の方も、クレープを食んでいるだけで終わりそうだ。


「デートは、初めてか?」

「そうだな。交際自体、したことなくて」

「私もなんだ。こんなとき、何を話せばいいのか」


 まずいぞ。楽しいデート場面を演出するにしても、きっかけがないと。おまけに、どちらも恋愛は初心者ときた。


「マヒルちゃん、何かアイデアはないかな?」

「急に言われても、困るっす。カレシできたら即ベッドインだったので」


 やばい。まるで参考にならないじゃん。ハードルが高すぎる!


「恋人同士とは、かくも軽々しく体を許すものなのか?」

「特に抵抗はなかったので」


 マヒルちゃんの振り切れてアバウトな貞操観念に、イーさんも困惑していた。


「今は?」

「仕事が生きがいなんで、交際とかは考えられないっす。恋愛の仕方とか忘れたっすね!」


 あっけらかんと、マヒルちゃんは語った。


「うーんどうするか? ご趣味は?」

「ゲームだ……ってイーさん、お見合いじゃないんだから」

「おっと。いかんいかん。硬くなっていた」


 こんなにフワフワしたイーさんは、初めて見る。初々しいが、仕事になるのか?


 時間をつなぐためにチビチビ食べていたクレープも、底をつく。本格的に、話題がなくなってきたぞ。


 ぴよぴよさんが、スナックのアソートを用意してくれた。甘いものばかりだったので、塩気がほしいと思っていたところである。


「共通の話題を話してたら、いいカンジなるよ。なにかあるでしょ」


 ぴよぴよさんからも「とにかく何か会話を」と指摘された。


 といってもなぁ……。


 そんなときである。アンちゃんが自分のゲーム機を、オレのテーブルに置いた。


 隣で、グレースさんもイーさんのノートPCを用意する。


「もうさ、いっそゲームで一緒に遊んだら?」


 アンちゃんの言葉に、オレはハッとなった。そうだ。もともとオレたちは、ゲームでつながっていたんじゃないか。ゲームがコミュニケーションツールだったはずだ。


「そうか……いいですね。社長、思う存分遊んでください!」

「いいのか?」

「このまま辛気臭いムードになるよりはずっといい絵が撮れます!」


 渋々、イーさんはコントローラーを握る。


「本当にいいのか、ハナちゃん?」


 困り顔で、イーさんが尋ねてきた。


「やろうイーさん。久々に『幻想神話』でもプレイしようぜ」


 オレは、アンちゃんの意図に感謝する。


「いい案だ。このごろ忙しかったからな!」


 幻想神話にログインして、協力プレイで進んでいく。 


「やっぱり幻想神話はいいな、ハナちゃん! 覚えることが少ないから、復帰後もすぐに遊べる!」

「オレも同じことを考えていたぜ!」


 代わり映えしないといえば、それまで。しかし、しばらく放置していても速攻で操作感を思い出せるって、すごく重要なんじゃないか? 


「じゃあ……最近遊んだゲームで、楽しかったのは?」

「『クラセちゃん』だな! こばやかわは、ソロプレイで気兼ねなく使っているぞ」

「わかる!」

「だろ?」


 チートキャラはときどき、無性に使いたくなる。


「ゲーム内課金については、どう思う?」

「生きがいなら、いいんじゃないか? どんなゲームもだが、義務感や惰性でプレイするのは精神的によくない」


 イーさんって案外、課金に好意的なんだな。


「デートしてみたいゲームキャラって?」

「そうだな……ハナちゃんが遊んでいたミステリ系のゲームがあっただろ? あの主人公とかいいな。ダンディで好きだ。ああいう大人が近くにいたら、私は道を踏み外さなかっただろう」


 しみじみと、イーさんは答えた。


「ゲームの話ばかりだな?」

「私たちらしくて、いいじゃないか」


 オレが申し訳なく思っていると、イーさんは軽快に笑う。


「ただでさえ恋愛経験が乏しいんだ。楽しい話題で盛り上がる方がいいだろ?」

「かもしれないな」


 仕方ないので、その後もゲームの話ばかりをした。ちっともデートって感じじゃない。


 それでも、社長は楽しそうに話してくれた。

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