イーさんとVRお化け退治へ

 オレがこの部署に配属されて、はやくも三ヶ月になろうとしている。


 いつの間にか、ひめにこの衣装が夏版になった。ゲーム配信時は「白い半袖のセーラー服」に、雑談時は「花火が舞う夜空を描く浴衣」へと変わる。


 今はゲーム配信なので、夏服セーラー姿だ。


「さぁさぁ姐さん、テストプレイテストプレイ」

「うう、どうしてこんな目に」


 マヒルさんの手によって、飯塚社長の顔にゴーグルが取り付けられる。いわゆるVRセットだ。


 このゲームは、真っ暗な家の中を探索し、お化けを退治するハンターのゲームである。

 幽霊が出たら武器の光線銃で撃ち、腰の収納ボックスに納めるのだ。


「えっと、花咲さん、あんたも」


 なぜか、オレもゴーグルを装着することに。


「二人プレイできるらしいんで。一緒にやってもらうっす」


 まあ、オレもコーチだし。新しい機材に触れておく機会と思おう。


「このレバーを前に倒すと、前に進むっす」

「うむ。進んだぞ」

「後ろに倒すと、後退するっす」

「下がった。よしよし」


 視界が暗い部屋の中を、社長はトボトボと行ったり来たりしている。ムーンウォークかな?


「ひっ、なんかいる!」

「オレだよっ!」

「なんだ、ハナちゃんかぁ」

「オレの側にいるんだ。離れないで」


 社長の手を繋ぎ、落ち着かせる。


「ファイトっす姐さん」

「う、うむ」


 だが、まだ三歩も進まないうちに。


「うひゃあ!」


 イーさんの手が食器に触れた。プラスチックのマグカップが、コトリと床に落ちる。


「テーブルのコップが倒れただけだ。落ち着いて」

「あやうく武器をぶっ放すところだった!」


 勘弁してくれ。一発撃つとチャージする必要があるんだから。


「センサーが反応している! オバケが近い!」


 手に持っている霊感センサーが、ビンビンと音を立て始めた。数は一つだけ。一面だからか、まだまだ規模が小さい。


「あひい!」


 突然、イーさんがうめく。


「どうした?」

「廊下に何かがいた!」

「気のせいだ。廊下には反応がない」

「いたもん!」


 イーさんはすっかり、子どもみたいな口調になっている。


「確認するから、オレの後ろに隠れてて」

「うん……ひっ!」


 ギイ、と鳴るフローリングの廊下にさえ、イーさんはビビリ気味だ。

 廊下はクリア、と。やはり、見間違いだったか?


「うっぐ! なんだ、おどかすな」


 鏡に映った自分の姿を見て、オレも同じように叫びそうになった。


 イーさんも、同じような状態だったんだろう。まぎらわしい。


 だが、急にセンサーが警告音を発する。


「いた!」

「いやーっ! 来るなーっ!」


 あろうことか、イーさんが光線銃を撃ってしまった。まだ何も出てきていないのに!


「おい撃つな!」

「わーわー!」


 化物は、キッチンを横切っただけ。しかし、イーさんは半狂乱になって、荒々しく紫電を放った。おかげで、家具や食器類が散乱する。


「あーもうメチャクチャだよぉ」

「うう、すまん」


 これで、一人分の銃はパーになってしまった。イーさんは、しばらく武器を使えない。


「じゃあ、そちらが霊感センサーを見てて。オレが片付ける」

「わかった……むむ!」


 逃げたと思ったオバケが、近づいている。好戦的なヤツなのかもしれない。


「いた。二階の子ども部屋だ!」

「急ごう!」


 階段を上がろうとした瞬間、顔のない真っ白な棒人間が目の前に!


「ひゃああああああ!」


 オレは誰かに、肩を掴まれた。後ろにも誰かが?


「わああああ! イーさんか、よせ! 手元が狂う!」


 慌てて銃の引き金を引いてしまう。紫の電が、天井を突き破った。


「やべえ、思ったより制御できねえ!」


 距離を取ろうと銃をしまった途端、棒人間がオレに近づく。あっという間に、マウントを取られてしまった。


「やべえ、首絞められてる!」


 オレの体力が、徐々に減っている。このままでは。


「私が手を押さえておいてやる! 撃て!」

「わかった頼む!」


 イーさんの細い手が、肩から腕へと伝わっていく。


「ナイス、命中した!」


 至近距離で放った紫電が、見事にオバケの心臓を捕らえた。


「ボックスを」

「うえええええ!」


 吐き気を催しながら、イーさんが腰のボックスを開く。


「いけえええ!」


 ボックスが、捕らえたオバケを吸い込んだ。


「閉めるぞ、せーの!」


 二人で協力して、栓をした。これでミッションクリアである。

 たった一面だけなのに、なんでこんなに汗をかいているんだろう?


「はー、面白かったなイーさ……」


 知らないうちに、オレは仰向けになっていた。オバケにマウントポジションを取られた時に、転倒してしまったのだろう。


「……」


 社長が、オレの下敷きになっていた。オレの背中は、社長のFカップをぶっ潰している。


 お化けが出てきたときより、オレは蒼白になった。

 


 結局社長がギブしたので、第二ラウンドはお流れに。


 自宅に戻って、寝る準備をする。


 散々な目に遭った。


 明日は休みだが、大事を取って今日は早めに寝るとしよう。


 ライトを消した瞬間、ドアホンが鳴った。なんだよ、こんな時間に。


「はいはい、てええ!?」


 なんと、ドアの向こうにいたのは社長だった。


「眠れない……今夜、ここで寝かせてくれ」


 はあああああああっ!?

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