人生初の、配信者デビュー!?

 なんとオレまでが、配信の手助け役に駆り出された。


「マジですか?」

「口調口調!」

「コホン。どうしてだよ?」


 咳払いをして、オレは口調を改める。


「会社とのコラボだ」

「でも、リアル割れしねえか?」

「キャラは、我が社が作ったアバターでいいから」


 この間、クリエイター相手に使った「姫とメイド」アバターを、今回は使用するという。


「えっと、どこまで進んでるんだっけ?」

「第三章っすね」


 まったくプレイしていないな。別のゲームばかりしていたから。


「家だと、スタンダートのシナリオは全クリしているんすけど」


 全五章までが、現在遊べる。オレもシナリオだけは知っていた。


「あくまで『ひめにこ』がプレイしている体なんで、ネタバレしそうな展開は避けてるっす」


 社長の進行度合いに、マヒルさんも合わせてくれているみたいだ。

 配信の枠を取って、スタートする。


『ひめにこじゃ~。今日は久々に、幻想神話を遊ぶぞよ。今日はニコラ社の社長とも遊ぶのじゃ~』


 社長とオレに、マイクは向けない。あくまでもお手伝いという名目である。オレは広報ではない。ヘタに口を出せないのである。


 第三章のステージは、滅びた古城である。廃城の奥に住まう強力なアンデッドを倒すことが、目的だ。


「ぬ、う」


 ニコラ社員限定アバターと言っても、見た目が違うだけである。強さはまったく変わらない。製作会社に頼んで、そういう仕様にしてもらっている。


「ひっ!」


 壁から突然現れたゴーストに、イーさんが過剰反応した。


「イーさん、大声は出さない方向で。マイクが声を拾ってしまうので」

「わかってはいるんだ。しかし、どうにもこうにも声が漏れてしまうな」


 悪戦苦闘の末、ボス部屋に到着する。


『ポルターガイストじゃとお? じゃあ、家具の側には近づかんでおくかの……なあ!?』


 突然、部屋中の家具が浮き上がった。

 グルグルと回りながら、オレたちを取り囲む。

 オレたちは、逃げ場を失った。


 その直後……。


「ひゃあ!」


 動く家具に押しつぶされ、イーさんが大ダメージを受けてしまう。


 助けに行きたくとも、オレは動けない。

 壁役になって、ボスの攻撃を足止めしているからだ。


 もしかしてイーさん、オバケ系がダメな人か?


『なんじゃあ。社長が苦戦しておるなぁ』


 幽霊なんてへっちゃらなのか、ひめにこがイーさんの救助に向かう。

 家具の行動パターンを読み解き、次々に撃退した。


『今じゃぞ、社員! 鏡に写っているのが本体じゃ!』


 すべての家具を活動停止させたひめにこが、オレに指示を送る。


 オレはモップで、鏡を叩く。


 ぬおお、という情けない声を上げて、割れた鏡からピンク色の実体が現れた。


 オレが攻撃していた白い布のようなオバケは、ダミーだったのか。


『いけいけ、全員でタコ殴りにするのじゃあ!』


 ひめにこの号令で、全員集まってピンクオバケを袋叩きにする。


 そのパターンをサンド繰り返し、ようやくポルターガイストを弱らせた。


「ええい、さっきはよくも。くらえ!」


 とどめを刺したのは、イーさんだ。


 イーさん姫の王笏が、ポルターガイストの脳天にクリーンヒットした。


 今度こそ、ボスが昇天する。


「助かったぁ」

『よし、このままクリアぞよ~』


 最後はひめにこがゴール地点を見つけ出し、幽霊屋敷から脱出。

 今回の配信は終了した。


「ふう。どうやら、姐さんの弱点わかっちゃったぽいです」

「な、なんだと?」

「オカルト系苦手っしょ?」


 マヒルさんから指摘され、社長はわざとらしく咳払いをする。


「ま、まああまり得意ではないかな?」


 早口でまくしたて、社長が視線をそらす。 


「苦手じゃんよ。それじゃあ、姐さんには近々、ホラーゲームやってもらいますんで」

「な……なぜだ?」


 社長が、予防接種を受ける子どもみたいな顔になった。


「だってもう夏じゃん」

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