自室に男女二人、何も起きないはずもなく?

「はいどうぞ」


 オレは社長のために、ミルクココアを淹れた。


「すまない。うまい……」


 社長はふーふーしながら、カップに口を付ける。


 もうミルクココアって季節ではない。が、アイスコーヒーだと利尿作用が働いてしまう。夜遅くにトイレが近くなるのは、できるだけ避けたい。


「なんでまた、オレの部屋なんかに? マヒルさんがいるでしょ?」

「ラーメン食べに行っちゃった」

「ええ? あ、ホントだ」


 SNSに、「ちょっとバイクでラーメン旅」と書いてあった。北陸って書いてあるから、煮干しかな?


 思っていたら、マヒルさんから電話が鳴った。


『花咲さんっすか? 今日VRホラゲーの収録で、やたらめったらガイコツと戦ったっしょ? そしたらやたら煮干しラーメンが食いたくなって』


 とのこと。


「ぴよぴよさんちは赤ちゃんがいるから、お邪魔できない。よってキミを頼った」


 グレースさんを頼れば……という手も考えて、やめた。あちらも小さいお子さんがいるんだっけ。


「そうですか。散らかっていてすいません」


 社長に受け答えしながら、オレは部屋を片付けている。床が汚れていなくてよかった。昨日掃除していなかったら、足の踏み場がないとこだ。


「寝られないんですよね、どうします? ゲームですか?」

「そうだな。キミといえば、ゲームだからな」

「なにがいいです? いくらでもありますよ」

 

 PCをスリープから立ち上げる。だが、社長と距離ができてしまった。ノートでも遊べる軽いゲームにするか。



「次の収録までに、ホラーに慣れておきたい。手頃な物はないか?」

「手頃って言ってもなぁ」


 ゾンビを撃ちまくる3Dゲームなら、手許にある。だがこれは、酔うだろう。


 VRの収録でわかった。飯塚社長は、あまり三半規管が強くない。


「社長。今、スマホあります?」

「うむ。目覚まし用に持ってきた」


 ナイスだ。


 軽めで、一緒に遊べるホラーのゲームなら、スマホゲーだろ。


「ホラー要素は弱いですが、怖い話系は?」


 オレは、一本のスマホゲームを選ぶ。


「ノベルゲームか。いいな」

「これなら相談しあえて、面白いですよ」


 内容は、同じアパートに住む隣人の秘密を、画面から証拠品をタップして当てるというゲームだ。


「謎解きゲームだな。やってみるか」 

「描写もソフトめです。心霊的要素が強いですが、グロくはないです」


 残酷描写系は、オレも苦手なのだ。


「意外だな。血ブシャー内蔵ドバーは、平気だと思っていた」

「そうじゃなくて、作者の嗜好がモロ出しだったりするんで、悪趣味なんですよ。物語に必要な要素じゃないなら、描写は控えめにした方が雰囲気が出て怖いんですよ」


 最近のゲームや映画は、色々と見せすぎである。ボカすことで活きる表現だってあるはずだ。


「これはいいゲームですよ。適度に見せて適度に伏せています。ちょい昔のゲームなんですけどね」


「うむ。これは、私がまだ学生だった頃のアプリゲームだな」


 そうだったのか。知らなかった。最近動画サイトで知ったゲームだから、てっきり最近のゲームだとばかり思っていたけれど。


「とはいえ、長いぞ。結構」

「よし。今日は夜更かしするか!」


 オレはホットココアのおかわりと、ポテチを用意した。


「明日から二日間休みだからな。一日くらいはいいか。今日は寝かせないぞ、ハナちゃん」


 イーさんも、夜更かしモードに。


「一件目は、ストーカーの家だな。JKの写真が一杯だ。おや?」

「これだ。ソファーの下っ!」


 顔を引きつらせながらも、スマホをタップする。


 見事正解だ。ソファーの下に、遺体があった。

 犯人は、「勢い余って対象を殺し、死体を連れて帰った」と独白している。自首するのではなく、このまま練炭自殺するという。

 窓や玄関にガムテープが貼ってたのは、そのためか。


 その後も、オレたちは住民の謎を解き明かしていく。


「ひい!」


 次の部屋の描写は、やや過激だった。性的な意味で。


「女物の下着ばかりだ! 下の階で下着泥棒があったと言っていたが、犯人はコイツだったのか!」

「うわあ。しかもコイツ、女装ヤロウだぜ」

「キミ、こんな趣味はないだろうな!」

「オレがやっても、グロ画像になるだけだぜ」


 とっとと事件を解決させ、次の部屋へ。


「次は、目が見えない人か」


『ドライブ中に、両目と恋人とを同時になくした』と説明がある。


「隣に住む親友が、面倒を見てあげているのか。友情だな」

「いや、そうでもないぜ」


 住人の扉に貼ってあるひらがなのシールに、オレは背筋が凍った。


「このシールを並び替えてみな」


 イーさんは、シールが意味するアナグラムを解いていく。


「うーむ。あっ! 『お・れ・の・い・も・う・と・を・か・え・せ』とあるが?」


 そう。

 住人が死なせてしまった女性は、親友の妹だったのである。


「親友の家に、仏壇あったじゃん。隣のタンスに、写真立てが置いてあったろ? 三人が写っていたけれど、住人の顔部分だけが割られていたんだ。それで、もしかしてって思ってさ」


 目が見えないのをいいことに、彼は住民に嫌がらせをしていた。さも気遣っているかのように振る舞って、復讐の機会をうかがっていたのだ。

 実際、友人は男性にわずかな毒を盛り続けていて、もうすぐ死ぬ予定になっている。


 謎を解き明かした後で、そういう説明が成された。


「おー、こういう心理的ロジックの方が、私には合っているかも知れないな!」

 

 気に入ってくれて、何よりだ。


「次の相手は……毒親か」


 急にイーさんが、深刻な顔になる。

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