オレの知ってるファミリートレーニングと違う

「なんすか、これ」

「こ、この格好はだな……」


 いや違います。社長が紺のブルマ体操着姿なのは問題ではなくて。どうせ「ひめにこ」の差分ですよね?


「オレ、ファミリートレーニングをやるって聞いたんですけど?」


 ジャージ姿のオレも、昔懐かしいゲームをやるモノだと思っていた。またトレーニングゲームかと。


『ファミリートレーニング』とは、下にゲームと連動したマット型コントローラーを敷いて、足踏みで遊ぶゲームである。


 オレは団地に住んでいたので、「下の階に響く」と遊ばせてもらえなかった。同タイプのダンスゲームも同様である。


「まさか、リメイク版だとは」


 最新機種でやるとは聞いていない。というか、出てたんだな。スポーツゲームはめったに遊ばないからスルーしていた。


「これなら、通信プレイができるからな。最新ゲームなので、せっかくだからと」


 従来の「かけっこ」が3Dになってる! すごい未来だ。過去のゲームの存在を知っているから、進化がハンパない。


 足にコントローラーを装着するのは「いっしょにトレジャー」と同じタイプだな。


 最初に遊ぶのは、『丸太飛び超え』だ。


 前から転がってくる丸太を、ジャンプでかわす。タイミングが割とシビアで、爪先が当たるだけで転倒してしまう。


「よっ、とおっ。いいね。面白い!」

「そうだな。私が知っているのも横スクロール型で、対戦も一人一人順番でプレイだったよな」


 なんだか、過去にタイムスリップしたみたいだ。初プレイが最新3Dタイプなんて、不思議な気持ちだけど。


「新種目もやるのか?」

「そうだ。『滝登り』とかがあるぞ」


 飛ぶ方角を決めて、滝に設置された足場を跳び移る競技だ。


「タイミングよく……飛ぶ!」


 方角に狙いを定めて、イーさんがジャンプする。


「せーのっ」


 オレも同じように飛んだ。


「これは楽しい」


 ミニゲーム感覚なので、動きが激しくてもすぐ終わる。インターバルが取れるのはうれしい。


「ひめにこは、何をするんだ?」

「新しく導入された『なわとび』を、ひめにこと遊ぶんだ」


 ゲストスタッフの一員として、マヒルさんと一緒に飛ぶという。




「おまたせしたっす」




 スタジオに到着早々、マヒルさんはジャージの下を脱ぐ。彼女も色違いの赤ブルマだ。



「マヒルさんは、コスプレしなくてもいいんじゃ?」

「社長だけ、センシティブな格好はさせられないんで。それにあたし、コス写真モデルのバイトもしてたんで」


 カメラの専門学生を相手に、撮影されるのは慣れているという。人の目は気にならないらしい。


「もっと際どいアングルを強要されたことも、あるっすよ。真下からーとか。そいつ蹴りましたけど、逆に興奮しやがって」


 うわぁ……。まともな人ばかりだったが、ネットで募集をかけるとたまにヤバい相手に当たるのだとか。


「さっそく、やりましょうか。あたしも身体は鈍ってるんで」


 準備体操もそこそこに、マヒルさんが飛ぶ準備を始めた。なるほど、ブルマなのは足をベルトに密着させやすくするためか。長ズボンだと、こすれてズレちゃうもんね。


 二人プレイなので、オレは引っ込んだ。


 イーさんとマヒルさんで、プレイする。


「運動神経は?」

「いい方だと思うが、歳だからな」

「五、六歳くらいしか違わないじゃん」

「結構な差だぞ。義務教育分離れているんだ」

「言い訳なし。いくっすよ」


 なわとび競技がスタートした。目標は、一〇〇回飛ぶこと。


『ちょっと待って五回しか飛んでないぞよ』


 ひめにこの口調で、マヒルさんがイーさんにダメ出しをする。


『リズム感。これはリズム感のゲームじゃ。気を取り直していくぞよ』


 始めようとするひめにこに対し、オレは「待った」をかけた。


「しばしお待ちを」


 オレは、二人の飛ぶ床に、マットを敷く。足を痛めないために。さっき一発目で、イーさんがいきなり足の裏が痛そうな顔をしたのである。


「これでどうだろう。飛んでみて」


 マイクに声が入らないよう、小声で話しかけた。


『うむ。問題ない。お主はどうじゃ?』


 スタッフという名目なので、マヒルさんは社長にもタメ口だ。


 話せないので、イーさんはサムズアップを決めてサインを出す。


 結果、見事一〇〇回ジャンプを達成した。


『百回感謝のなわとび成功じゃ。スタッフもありがとうな~』


 マヒルさんが、イーさんと抱き合う。


花咲はなさきさん、ちょっといいっすか?」


 収録が終わり、マヒルさんがオレに声をかける。


「あの状況で、よく社長が足いたいってわかったっすね?」

「ああ、イーさ……社長は、顔に出るんだよ。わかりやすんだ」



「ふーん……怪しいっすね」



 アゴに手を当てて、マヒルさんが名探偵っぽさを出す。


「え、なに?」

「二人の関係は、本当に上司と部下ってだけっすか?」

「そうだぞ。ゲームしている間柄ってだけだな」

「グレースさんから聞いたっす。ゲームを教えているって」


 なんだ。隠す必要はなかったのか。


「でもなぁ。思ってた以上に懐いてたり、意思疎通が淀みなかったりで、二人の距離を勘ぐっちまうんすよ」

「いやいや、誤解だ。オレに限ってそんな」

「どうでしょうかね。案外、社長も好意を持っているような」


 変なコトを言うなぁ、マヒルさんは。


「別にいいんすけどね。花咲さんなら、安心できるし」

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