こばやかわ禁止令

 今日は、ひめにこチャンネル生放送のテストだ。


 回線の具合や、PCの不備などをチェックする。特に今回、「リスナーと通信対戦で、一緒に遊ぶ」というコンセプトなので、失敗ができない。


 収益化記念として、リスナーを招いて勝負する。


 テストプレイの場所として、オレと社長は公民館を借りた。回線テストのためである。ノートPCのUSBポートに、HDMIの端子を差し込んだ。miniをノートと繋げる。


「よし、準備完了だ。イーさん」

「ではさっそく、『クラセちゃん』を練習しようっ。ハナちゃん」


 二人きりで、ゲームをする。よって呼び方も、ハナちゃんイーさんだ。


「私も、リスナーに混じって遊ぼうかな?」

「キッズは、容赦ないからなぁ。弱いとみたら一方的に殴られて終わりそうだな」

「そうか。当分は身内だけで遊ぶか」


 興奮するイーさんをたしなめ、オレもコントローラーを握る。って……。


「なんだこのコントローラーは!? ちっさ!」

「ゲームより、このコントローラーに慣れる必要があるな」


 片手でもスッポリ収まってしまうんじゃないのか?


 ゲームを起動させる。


 リスナーと遊ぶゲームのハードは、八〇年代に誕生した元祖ゲーム機のmini版である。そこに収録された『熱血乙女 クラセちゃん』だ。レディースのクラセちゃんが、街を牛耳るヤンキーをボコるシリーズである。


 シリーズの中で、社長は「運動会と称して街中で暴れ回る」タイトルを選んだ。最新機種でリメイクもされているが、認知度の判断で旧版が採用された。ゆくゆくは、新版もプレイしていくつもりである。


「夢だったのだ。友だちとわいわい『クラセちゃん体育祭』で遊ぶのが」


 やけに、今日の社長はやる気だ。実家だと、誰も遊んでくれないどころか、ゲーム禁止だったらしい。


「会話についていけなくて、寂しかったなぁ」


 しみじみと、イーさんは語る。


「私は、この赤い制服の学校を選ぼう」

「冷嬢高校」か。悪役令嬢ばかりがいる学校で、双子の女子格闘家が仕切っている。

「ハナちゃんは、どの学園を選ぶんだ?」

「オレは「乙女連合」を選ぶぜ。緑色の制服のヤツな」


 頭突きが得意な石頭のポニテが先導する、各学校の寄せ集めチームだ。


「相手はひめにこと……ギャング梶原!?」


 とんだ大物の名前があがり、オレは緊張で手が震えた。


「誰だ。そのギャング何某というのは?」

「ああ、あんたは知らないか。超有名なゲームライターだよ。モヒカンとグラサンがトレードマークなんだ」


 たしか、グレースさんが「今日は特別ゲストがいるので」って話していたっけ。ゲームライターと知り合いとか、どんなパイプがあるんだよ。


 ひめにこは主人公の通う、白い制服の「情熱高校」を選択。余った青制服の「バラ園女子」が、自然とギャング梶原に。


 プレイする高校を選び終えたので、ゲームを始める。


 街を走り回る障害物競走だ。障害物といっても、待ち構えるのは民家や地下道やネコだ。


「レンガを投げるとか、倫理に反するな」

「そんなことを言っていると負けるぞ。ほらドリンクを」


 パワーアップドリンクを飲むと、ステータスが上がって有利になる。みんな気を遣って、ステータスの上がるアイテムはイーさんに優先して渡した。ただ、優しいのではない。そうでもしないとイーさんだけが取り残されるからだ。


「下水を泳ぐとか、衛生面とかまるで無視だな」

「その直後に、食事中の民家に不法侵入して突っ切るとか、環境破壊もいいところだよな」


 昔のゲームは、すげえ。こいつらお嬢様も混じっているのに、平気でヨゴレなバトルをやっている。


 忖度プレイのおかげで、イーさんは二着でゴールした。オレとひめにこは空気を読んで、イーさんを勝たせているが……。


「このギャング梶原とやら、情け容赦ないな」


 彼は解説こそ初心者向けに親切だが、プレイはガチなスタイルを貫いている。しかし、ここまでキッズくさいプレイングだったかな?


 その後「金のくす玉割り」では、ギャング梶原が一等になった。


 いよいよ花形、「かちぬき格闘」を残すのみとなる。


「こばやかわを使いたかったんだ!」


 イーさんが格闘戦に使うキャラは、「冷嬢 影の最強」と称される「こばやかわ」だ。マッハ逆水平なる、連打チョップを得意とする。


「オレが学生当時、『こばやかわ禁止令』が出たくらい強かったぞ」

「私は彼女の強さを未体験なのだ。少し遊ばせてもらう」


 試合開始直後、オレはいきなりチョップハメを喰らった。


「おお、強い強い! これは使用禁止になるな!」


 ウキウキしているイーさんの横で、オレは不穏な動きを感じ取る。


「気をつけろ。バラ園がなにか仕掛けてる!」


 バラ園のキャラが、片足立ちで身構えていた。


「やべえっ。あれは「発剄パンチ」だ!」


 オレたち全員、なすすべなく吹っ飛ばされた。


「発剄パンチ」とは、見えないオーラを発射して、相手を吹っ飛ばす技である。

「戦闘方がキッズすぎるだろ。ホントに手加減しないな、ギャング梶原は」


 チョップの連打から解放されたオレは、ギャングのキャラを優先的に倒しに掛かった。ひめにこも同じ考えに至ったらしく、ギャングに襲いかかる。


「せーのの合図でオーラを避けて! せーのっ」

「ほっ」


 当たってしまったが、イーさんのダメージは宰相に抑えられた。


「イーさん、こいつはチョップでハメていい! キッズにはキッズだ!」


 結局、イーさんがハメ手で勝つ。ここからが本番……のはずだった。


「ぎゃああこばやかわがああああああっ!」


 哀れ、こばやかわはリングアウトしてしまう。


 総合成績一位は獲ったものの、イーさんは気持ちよく勝てなかったのでご不満の様子だ。


「もう一回やろう!」

「あとでな」


 それにしても、ギャング梶原はプレイが雑だったな。あんな感じだったっけ?

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