第四章 レトロゲーで懐かしみますか?

モヒカンイーさんと、角刈りハナちゃん

 遥か未来。黒い鎧に覆われた魔王によって、世界は炎に包まれていた。

 二体の戦士が時空を超えて、この荒廃した世界に降り立つ。


「ヤツはいたか、ハナちゃん?」

「ああ、イーさん。今日こそヤロウの息の根を止めてやろうぜ」


 モヒカン頭のイーさんに、オレは返答をした。ちなみに、オレは角刈りの半裸だ。トレードマークは二人ともグラサンである。


 自分の背丈ほどあるビームアサルトライフルを腰に構えて、オレたちは空を飛んだ。

 

 目指すはこの世界を滅ぼした魔王のいる城である。


 再び人類の平和を取り戻すため、オレたち二匹の超戦士は荒廃した地を駆け抜けるのだ。

 

「というのが、このゲームの一連のストーリーだ」


 コントローラーを握りながら、オレはイーさんに説明をする。


 オレたちが遊んでいるのは、「メガエンジン mini」に入っている古いゲームだ。レトロゲーム機の復刻版であり、往年の名作が三二タイトルも入っている。

 数あるゲームハードの中でも「メガエンジン」は、オレがガキの頃に特集テレビ番組があったくらいの人気ハードだった。


 オレたちが遊んでいるゲームは、メガエンジン miniに内蔵されている『ロスト・パラダイス』というゲームだ。青いスーツのモヒカンと赤いスーツの角刈りを操り、世界を破滅させた魔王をブチのめしに行く。


「ふむ。シューティングはウツな展開が多いな」


 イーさんの意見も、もっともである。一昔前のシューティングゲームは、超ハッピーか超バッドくらいしかない。


「変に終わりを意識した物語性だと、続編が出ると思われないからな」


 重く暗い展開にした作品の方が、続編率が高い気がする。「まだまだ戦いは終わらない」と、勝手に盛り上がってくれるのだろう。


「イーさんは、ワイドショットでまんべんなくやっつけてくれ。オレはロングナパームで前方を焼き尽くす!」

「わかった。遅れるなよハナちゃん!」


 ノリがいいな、イーさん。


「死にたい奴から前に出ろ! くらえこのq08○gwr×er野郎!」


 汚い言葉を発しながら、イーさんが三方向へ飛ぶショットを放つ。


「いやー、面白いくらいに敵が壊滅していくなぁ。シューティングはこれくらいの難易度がちょうどいい」

「だな。オレも正直言うと、全クリアできるのがこのゲームくらいでさ」


 他にも人間を操るシューティングは、他にも数本が入っている。だが、敵が硬いなどで断念した。


「ゴミを食う芋虫如きで、俺たちを止められないぜ!」


 キャラクターに合わせて、ゲーム内セリフをイーさんが語る。この世界観を気に入ったらしい。


「なんかこう、面をクリアするごとに世界が浄化されるって展開はいいな!」

「だな。なんか前に進んでいる気がするよ」


 だが、敵の攻撃は苛烈になっていく。


「うわうわっ。ワイドショットが通じなくなってきた」

「店が出てきたな。中に入ろうぜ」


 このゲームは、「ショップ」というシステムがある。敵を倒したら出てくるお金を貯めて、買い物ができるのだ。


「ホーミングレーザーを追加なんてどうだ? いちいち狙わなくていい」

「伝説の『サラリーマンレーザー』か! 撃ってみたかったんだ!」


 正確には、別会社のシューティングゲームをオマージュしたアイテムである。が、原理は同じだ。


「うひょーっ! かっこいい。ちゃんと紫色じゃないか!」


 ジョバジョバと敵を蒸発させていくレーザービームに、イーさんは興奮気味である。気に入ってくれたみたいだ。


 対してオレは、ワイドショットとホーミングミサイルを装備し、イーさんの撃ち漏らしを処理していく。


「一匹も逃がすものかーっ!」

「その意気だぜ、イーさん!」


 ラスボス一歩前の巨大戦艦を、オレたちは破壊した。


「貴様らにそんな玩具は必要ないぜ!」


 イーさんは、すっかりモヒカン超戦士になりきっている。

 いよいよラスボスだ。昔のゲームはあまり世界観を語らず、二~三〇分くらいで終わる。だからいい。


 鉄の鎧から、一直線に平手状の弾幕が飛んできた。


「おおー、ビンタレーザーだ」

「ハナちゃん、ボムを撃つか?」

「それやると逃げるんだよ、こいつ!」


 回避が必要なときだけ、ボムを発射しようと作戦を立てる。


「オレが囮になるから、撃ち込んで!」

「わかった。死ねえ!」


 物騒な言葉を吐きつつ、イーさんはサラリーマンレーザーとロケットをラスボスに叩き込む。


 イーさんが一騎打ちしている間、オレはラスボスの攻撃をよけながらザコを処理していった。せっかくワンコインクリアが見えている。イーさんに決めてもらいたい。


「やった、やっつけたぞ!」

「まだだ。よけて!」


 鎧が剥がれ、赤い実体が写し出される。いわゆる「発狂」だ。


 イーさんの自機が、ひとつ減ってしまう。


「こんなのどうやって倒すんだ!?」

「任せろ! このこの!」


 オレは敵の注意を引きつけつつ、ホーミングを撃つ。


「後は決めてくれ、イーさん!」


 ボムを撃って弾を消し、イーさんに飛び込ませる。


「行けぇ」


 サラリーマンレーザーが、ついにラスボスを撃ち抜いた。


「やったーっ! ワンコインクリアだ!」


 イーさんが、コントローラーを高く上げて、オレを抱きしめる。


「すごいっ。すごいぞ、イーさん!」


 オレも抱きしめ返す。


「失礼致します。社長、次の収録は……」



「あ」



 オレたちの光景を見て、グレースさんが玄関を「そっ閉じ」した。

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