第二章 スポーツはゲームに含まれますか?

いつからGWが祝日だと錯覚していた?

「休みだぁ。長かったなぁ」


 自宅にて、オレは伸びをする。

 飯塚社長とゲームをする仕事に就いて数日が過ぎた。


 今日は待ちに待った宴の日だ。明日からGWである。


 四日間ずっとゲームができる……ならよかったんだが、四日間のうちに引っ越しを行う。


 幸い、オレはゲーム以外それほど荷物がない。

 本は電子書籍だし、服も最低限しか持っていなかった。


「営業は身軽でいた方がいい」と考えていたからだ。とはいえ、ゲーム機材など精密機器が大量にある。油断はできない。


 だから、今日くらいはハメを外す。バリバリ外してやるんだ。


 ポテチをボリボリと食いながら、オレはやるべきゲームをPC内から探す。


『幻想神話』は、何度も社長と回った。飯塚社長のキャラもメキメキと育ち、シナリオも割と進んでいる。


 だったら、別ゲーを立ち上げるか。

 久々にシューティング? 

 いや、版権ロボットのシミュレーションもいいな。


 コントローラーを握る。


 プレイするのは、仕事でずっと遊べなかったアドベンチャーゲームに決めた。


「おっと、そうだった」


 ようやくバーチャル配信が始まる。


 引っ越しの準備をしつつ、第一回目を家で鑑賞した。ちなみに、事前に録画したテスト配信であり、三〇分くらいで終わると前置きコメントがある。


「こんばんは~。わらわが『ひめにこ』なのじゃ~」


 我が社の扱うキャラは、『現代日本の文化に触れるため、JKに擬態してこの地にやってきた宇宙人』という設定だ。人間の姿はあくまでもガワ、つまり変装らしい。実物は触手だらけの生命体だという。


 安いソフトを使いつつ、器用に動かしている。声優さんの抜けた演技も素晴らしい。「最初から高コストをかけず、無料ソフトをぶち込んでこしらえた」というから、もっと安っぽいかと思ってた。中身はとんでもない。これは伸びるんじゃないか?


「さっそく『幻想神話』のプレイを始めるぞ。この作品の物語は……」


 キャラを作成しながら、ストーリーを解説する。自分に似せた魔族フィーンドのパラディンを完成させた。公式メーカーも推奨している組み合わせである。ハナちゃんとイーさんのいいとこ取りで、結論づけたらしい。


 だが、妙に動きが鈍かった。いつまでも先へ進まず、同じ所ばかり回っている。とはいえ、ヘタってわけでもなく、社長より圧倒的にプレイスキルは高かった。キャラメイクのデザインなども、細部までこだわっているし。


 オレもゲームを進めながら見ていたが、この子の遊んでいるエリアは、一五分前と場所が変わっていない。


「この人、慣れてるな。もっと進んでもいいのに」


 見る限り、どうもわざともったりプレイしているようだ。


 ヒントは、すぐに見つかった。動画の下にあるコメント欄である。膨大な書き込みがされていた。


「いつの間にこんな。もう中の人を特定する情報まで……」


 視聴者の情報網、恐るべし。


「そっか。コメントの流れを見ながら、視聴者と歩幅を合わせているのか。そのシミュレートをしているんだ!」


 これは録画だが、実際はコメントなどを見る必要がある。他の配信者も、コメントを見ている間は硬直していたりするからなぁ。


 RTAリアル・タイム・アタックのような急かすプレイではなく、物語に引き込む遊び方をしている。


「すごいな。こんな神経使うプレイ、オレには無理だわ」


 プロの力に感服した。これはマネできない。


「お前が中に入れ」って言われなくてよかったぁ。オレだったら、何カ所も胃に穴が開いていたところだ。


 チャイムが鳴った。


「ピザ屋です。えっと、花咲はなさき 電太でんた様のお宅で間違いないですね」


 若い女性が、オレに平べったい箱を差し出す。


「は、はい。そうですよ」


 女性と話すことに慣れていない。思わずどもってしまう。会社付き合いで、女性社員と会話しているはずなのに。あまり女性かつ介していないのかも。


 少女の視線が、奥の部屋に移る。


 しまった。配信を止めてない。


 なぜか、少女はPCからの音声に耳を傾けているように見えた。


「どうかしましたか?」

「い、いえ、なにも!」


 声をかけてみると、明らかに挙動不審である。


「あれ、あんたは?」


 オレは、その配達員に見覚えがあった。


「ニコラ社員割引ですね。承知しました。では」


 会計が終わると、そそくさと少女は立ち去る。


「あり、がとう、ございます」


 オレ自身の女性よわよわ体質も混ざって、結局何も聞き出せずじまいに終わった。


 ニコラ社の系列会社は、数多い。今や、飯塚社長の実家である財閥すら追い越してしまっている。厳密には向こうが没落したのだが。


「それにしても、誰だったっけな」


 独りごちていると、スマホが鳴った。


「そちら、花咲はなさき 電太でんた様の携帯電話で間違いないですか?」


 電話の向こうから、若い女性の声が聞こえる。


「休憩が終わっているにもかかわらず、昼間から社内でゲームをしていた、花咲 電太様に間違いないですね?」

「は、はい。かもしれませんね」


 ノリでごまかして、どうするんだ?


「えっと、社長秘書のグレースさんですよね?」

「明日の朝、社長のお仕事をお手伝い願えますか?」


 マジか。オレに休みはねえのかよ。


 でも、プロジェクトが稼働中だから、仕方ないかな。


「代わりに、休日手当も色を付けさせていただきますよ。引っ越しの作業はこちらで致します。」


「引っ越しなら一人でも大丈夫ですが」

「いえいえ、手配致しますよ」


 そこまでしてくれるってんなら、よほどの用事なのだろう。


「あなたにしか、頼めない仕事なのです」

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