幻想神話 攻略

「でさイーさん、一つ聞きたいんだけど」

「どうした?」

「ゲーミングPC使ってるじゃん。でもさ、一人称の3Dゲームとかが少ないんだけど?」


 ゲームのアイコンなどを調べてみたのだが、VR流行の一人称ゲームなどは見当たらない。


「収録スタジオには、ちゃんとあるんだ。まったく持ってないわけじゃないぞ」

「うん。知ってる。トレーニングゲームとかあったし」


 ファンタジー世界を筋トレしながら回るゲームは、棚に置いてあった。


「そうなんだ。本当にこのゲームは、一人でもサクサク行けるな」

「仲間への接待プレイを嫌った開発者が、作ったゲームだからな」


 ある一定のレベルまで行くと、オンラインゲームはどうしても協力プレイを「強要」される。

 プレイヤーに役割が割り振られていくように。

 となると、そのうち遊びではなくなる。

 パーティの関係がギスギスしていく。


『幻想神話』の開発者はそれを嫌って、ソロ狩りでもプレイ可能な環境を作った。

 よって、二人以上は協力プレイできない。


 月額課金三〇〇円という、海外のゲーム方式を採用している点も、「アンチを始めからシャットアウトする」ことに貢献している。


「いやいや、はぐらかさないで。どうしてプレイしないのかって聞いてるんだけど?」

「酔うんだよ……」


 ああ、三半規管が弱いと。


「だから『幻想神話』を選んだのか。見下ろし型のゲームだし」

「そういうわけだ。笑うだろ?」

「いや、助かった。オレも酔うんだ」


 社長との共通点を、見つけた気がした。


「よし、ゲームを再開しようっ」



 食器を洗い、再び机に座る。



 始まりの村とは別のエリアへ行く。


 一番大きなダンジョンに、所の島全体の怪物を牛耳るボスがいる。


「ここからは、敵の勢力も増すので注意して」

「心得ている」


 イーさんが切り込む中、オレはイーさんの死角をガードしつつ前へ。


「ところでイーさん、オレと遊ぶゲームってのは『幻想神話』だけか?」

「当面は、そのつもりだ。ほっ。やっ」


 会話しながら、イーさんがゴブリン亜種を切る捨てた。


「そもそも、私が個人的に遊びたかったから、配信一発目はこのゲームを選んだ。えい」


 人が聞いたら、ワンマン経営者のそれだな。


「我が社の配信者にファンが付けば、都度視聴者の声に応えていけばいいかと」


 じゃあ、一通り触っておけばいいか。


「キミの家にあるゲームを、当分は遊んでもらうつもりだ」

「オレたちの役割は?」

「テストプレイヤーだな。とりゃ!」


 残るは、ボス部屋だけ。


 足を止めてブックマークをした。回復剤などのチェックを済ませる。


「推奨レベルは満たしてる。安心してぶつかっておいで。小太刀から大太刀に変えるのも忘れずに」

「わかった」


 ダンジョンを仕切る敵は、ミノタウロスだ。

 牛の頭で、斧を構えている亜人種である。

 このゲームの絵柄的に見た目はキュートだ。

 とはいえ、強さは並の冒険者などひねり潰す。


「おおう! ごっそりダメージが!」


 ミノタウロスの斧がイーサンを捕らえた。HPバーが半減する。タイミングを見誤り、イーさんが深手を負う。


「落ち着いて回復!」


 下がって、イーさんがオレの側まで逃げる。

 オレは急いで回復魔法を施した。


「大丈夫。殴り続けたら相手も弱っていくから」

「うむ。もう一回」


 三連続コンボを叩き込み、後一撃まで迫る。

 惜しい! それと危険だ。


「深追いするな! 一旦下がって」

「でも、一撃だぞ」

「凶暴化してるんだ!」


 今までにないパターンの攻撃が飛んできた。

 角によるタックルを受けて、イーさんの体力が残りわずかとなる。


 初見殺しが来た。

 オレも一度、暴走モードのミノタウロスにこの攻撃を食らった経験がある。

 当時は持ちこたえて倒したが、それはオレが防御を固めていたからだ。


『幻想神話』は、オーソドックスな魔物しか出ない。

 その分、攻撃のバリエーションなどで見応えのあるバトルを演出してくれる。


「うわーやばい!」


 イーさんが、目の前の光景に絶望していた。


 牛人間が画面を縦横無尽に暴れて、手が付けられなくなっている。

 早く倒さないと、どんどんスピードが上がっていく。


「オレが囮になるから、急いで回復して!」


 タックルを防ぐだけで、オレは攻撃側に参加しない。

 経験値が割り振られてしまうからだ。

 あくまでも、イーさんにはソロで倒してもらう。


「いや。回復はしない!」

「イーさん!」

「サムライには、こういう戦いもある!」


 捨て身の一閃で、イーさんは飛びかかる。

 そのスピードは、暴走して画面上を暴れ回るミノタウロスの眉間を、見事に貫いた。

 完璧なタイミングで。


「すっげ」


 確かに、サムライは「起死回生」というスキルがある。

 体力が一〇%を切っていると、攻撃力とスピードが飛躍的にアップするのだ。

 その代わり、自分も振り回されて扱いが難しい。


 まして、彼女は動きのクセが強い魔族だ。

 起死回生の速度は二倍になる。コントロールの悪さも。


「この土壇場で、逆転とか」


 なんていう勝負感の強さだろう。


「やったぞ! アイテムも大量だ!」


 ドロップアイテムが、ザクザクと出てくる。


「よかったな。次の街に進めるぞ」

「うむ。世界平和に一歩近づいたな」


 街へ戻ってアイテムを換金した頃には、夕方を迎えていた。


 夕飯を食べないかと言われたが、丁重に断る。

 さすがに図々しいからな。


「今日はありがとう。ハナちゃん」

「もう勤務外です。花咲ですよ」

「そうだったな。引っ越しの手伝いが必要なら、呼んでくれ」

「はい。ではまた明日」


 手を振って、社長と別れた。

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