第5話

「貴様、この期に及んで笑うか」


 システィーゾの言葉を聞いて炎を避けながら口を触ると確かに笑っていた。


 決闘の最中に笑うのは不謹慎だと思うが今の状況が楽しいから自然と笑みが深くなってしまう。


「すみません。とても楽しいので」

「楽しいだと?」

「はい、自分の身体が思い通りに動く。それも戦いの中で動けるのが楽しいんです」

「良い度胸だ……笑えなくしてやる!!」


 システィーゾの身体を覆う炎の量が、さらに増えた。


 精霊級エレメンタルは感情によって能力の強弱が変わるのかもしれないな。


 まあ、それがわかったところで俺のやる事は変わらず、ひたすらシスティーゾの炎を避けて秋臣あきおみの身体に俺自身を合わせていくだけだ。


 …………そうか、今気づいたが、そういう意味では距離を選ばず、あらゆる角度から攻撃してきて炎の熱が戦場にいる事を意識させるシスティーゾの炎は最適か。


 ああ、俺が研ぎ澄まされて秋臣あきおみの身体の隅々まで俺の意識が届いていく。


「俺を前にして笑うな!!」


 システィーゾの炎がさらに燃え上がり量も増えていく中、とうとうそれが来た。


 頭の中で小さくカチッと音がして周りの景色が色あせ、ひどくゆっくりと動くようになった。


 この感覚だ。


 俺が前世の死ぬ前に手に入れたのは、この感覚だ。


「これならできる」


 自分の無意識のつぶやきが耳に入り、それならやるだけだと決意が固まる。


 俺は炎の津波が迫って来るのを目で見つつ、右足を前に出し秋臣あきおみの能力で生み出した黒い木刀を左肩に担ぐように構えて、身体の力を抜きながら前に倒れる。


 そして身体が地面に着く前に一気に両足で踏み切り前へ跳んだ。


 俺が加速した事で、さらにゆっくりに見える炎の津波へと近づき、まず縦一文字に切った後、勢いを殺さず回転して横に切り裂く。


「は?」


 俺に一瞬で十字に切り裂かれた炎の津波の間から状況が理解できずポカンとした顔のシスティーゾが見えたから、跳んだ勢いのまま切り裂いた十字の間を抜けてシスティーゾに接近して胸を木刀で突いた。


「ガハッ!!」


 ゴキッという鈍い音がしてシスティーゾが吹き飛んで闘技場の壁に叩きつけられるのと同時に景色の色と流れる速さが元に戻る。


 ……今の突きはシスティーゾの炎の鎧を突き破れた。


 これは俺が加速したのとシスティーゾがポカンとして炎の制御が甘くなった結果か?


 何にしても闘技場の壁に叩きつけられたシスティーゾが倒れて動かないなら決着だな。


 俺は秋臣あきおみの能力で生み出した木刀を消して闘技場の救護室に向かう。


 高揚感で誤魔化していたが、さすがにこの身体の火傷を放っておくわけにはいかん。


 この身体の本来の持ち主である秋臣あきおみのためにも大切にしないとな。


「せ、精霊級エレメンタルのアラン=システィーゾと器物級マテリアル鶴見つるみ 秋臣あきおみの決闘は、……器物級マテリアル鶴見つるみ 秋臣あきおみの勝利です」


 後ろで決着を告げる戸惑った声と観客のざわめきが聞こえるが気にせず離れていった。




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◎後書き

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