第28話 未知の強者
5機のガンシップがオレ達の周囲を旋回しはじめた。
その横腹からは複数の火砲が突き出ている。あれに一斉射撃されたらオレ達も病院も全滅は必至だ。
そして目の前に立つ銀色の巨人。
原型はハドロンと思われるのだが、やや背が高く13メートル程度ある。バリオンを更に重装甲化したような、骨太で力強い姿をしていた。
「ふふふ。チェックメイトだ」
ふいに通信が入った。
画面には白髪を長髪にしている初老の男が映っていた。
「はじめまして、三笠くん。いや、今は斉藤くんだったかな」
「どうしてオレを知っている」
「当然さ。私の計画を邪魔してくれた大御所の婿だからな」
「大御所とは紀里香のことか」
「そう、紀里香とかいう名だったね。ムカつく名前だ」
「うるさい。黙ってろ!」
そう叫んだ玲香が銀色のアンノウンに斬り込んでいく。しかし、アンノウンの左腕に仕込んであったレーザービームで腹部を撃ち抜かれてしまう。
「このやろ」
玲香はさらに突っ込んで行くが、アンノウンのレーザソードで右腕と胴体を切り裂かれて倒れた。クロ
「玲香!」
オレは叫びつつ、実剣をアンノウンに投げつける。しかしあっさりと打ち払われた。
「チェックメイトだと言っただろう。もう逆転は無理だよ」
その時ツバキが報告してきた。
「小松基地から発進したスクランブル機はアンノウンと交戦中。また、空母しらさぎはアンノウンの攻撃を受けました。現在、航空機の発艦ができません」
してやられた。
支援を断つ手立ても済んでいるとは……
「お前は何者だ」
「失礼。名乗ってなかったな。私はWFA総裁のネルソン。ネルソン・ガラナだよ」
「ネルソン・ガラナ……」
「もちろん本名ではない。まあ、抵抗を止めてくれれば命は奪わないよ」
「秋山を殺すんだろ」
「ああ、彼のような英雄を生贄にするのが良いんだ。効果があるんだよ」
「生贄だと……気違いめ」
「何時の時代でもね。新しく何か事を始める者は気違い扱いされるものだよ。何時の時代でもね」
自信満々に高説を垂れるネルソンだったが、突然、秋山が通信に割り込んできた。
「俺は生贄になどなる気はない」
どこから?
秋山は何処にいる?
オレは周囲を見回した。そして、病院の屋上に人影を見つけた。そいつは携帯用のロケット砲を構え、ガンシップに向けて発射した。放たれたロケット弾は見事に命中し、ガンシップは爆散、墜落した。しかしこれは不味い。あの位置、病院の屋上は丸見えで、他のガンシップから狙い撃ちされる。
「させないわ」
ややハスキーな声で通信が入る。今度は紀里香の声だった。
直上よりレーザービームが数本、ガンシップに突き刺さる。
「雷光が4機、衛星高度より降下しています。現在、高度4万メートルより急降下中です」
ツバキが報告してきた。再び数本のレーザービームがガンシップに命中し爆散した。5機いたガンシップは全て撃墜された。
「またあの女か。忌々しい」
アンノウンのトリプルDは両肩から信号弾を発射した。
撤退の合図か。
「じゃあな。斉藤くん。次はこいつと対等にやりあえるよう準備しておくことだ。名前は昇竜だ」
そう言い残して奴は消えた。電磁波シールドを展開したようだ。
数分後、雷光4機が低空まで下りてきた。翼を振りながら旋回している。
「和馬。大丈夫だった?」
「ああ、何とかな」
「くっそー、あいつジジイだったのか。次はぜってー負けない。ボクが勝つ。このやろー」
コクピットから這い出てきた玲香が悪態をついている。相当腹が立っているようだ。元気いっぱいで怪我はしていない。無事でよかった。
「あの顔には見覚えがあります」
突然、秋山が話し始めた。
「クラージュの船内で見かけました。皆が楽しんでいた無重力イベントの最中に、一人でむすっとしていたので覚えています。その後、コクピットに押し入って色々指示を出していたリーダー格の男だと思います」
「犯人は全員射殺したんじゃないのか」
「多分、義体に精神移植をしていたのでは?」
義体に精神移植をしていたのか。それなら撃たれても元の体に戻ればいい。実況見分の資料は改ざんされていたのだろう。義体の犠牲者などという記録はなかった。
「ところで秋山。お前、動けたのか?」
「ええ、義体を使ってますから。ここは精神移植専門の医療機関ですよ」
「お前、やめるんじゃなかったのか?」
「ランスには乗りませんよ」
「そういう事か。わかった」
雷光4機が病院上空を旋回している。
「一旦、小松に降りるわ。和馬、またね」
紀里香の機体、赤と白のツートンカラーの隊長機はヒラヒラと翼を振り上昇していく。残りの3機も紀里香についていった。
「敵部隊の撤退を確認しました。パワードスーツ部隊の反応消えました。交戦中だった敵戦闘機も撤退。第一戦闘配備は解除されました」
ツバキの報告を聞く。
今回も運が良かったとしか思えない。裏をかいたつもりが読まれていた。由紀子さんの戦術も不十分だった。天才の上を行くWFA総裁のネルソン。クラージュのハイジャック事件もこいつの策略だった。今回の敗因はあのハドロンの改良型であろう昇竜の出現だった。
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