第22話 防人の記憶
俺は戦争ばかりやっていたのか。
戦争が好きとかそういうのではなくて、危機に対してじっとしていられない性分なのだと思う。
22世紀の日中戦争では、米軍のパイロットとして参戦した。
20世紀では、桜花搭乗員として特攻作戦に参加。
16世紀には、唐の将軍として豊臣秀吉の軍勢と戦っている。
13世紀には、鎌倉武士として元寇にて武勲を上げた。
7世紀の白村江の戦いでは、百済の将軍として日本と共に唐・新羅連合と戦った。
主な記録だが、ずっと日本人というわけではなかった。しかし、何度か英雄として称えられた事もあるようだ。
「英雄の魂なのですよ」
「そうなのか?」
ウルファに俺が聞き返した。
「そうみたいです。客観的には損な性分が裏目に出ているのでしょう。負け戦も多いですからね」
「もしかして、何万年も?」
「そうですね。軍事で社会に貢献する魂だと思います」
「なるほど」
突然の話にやや追い付けない部分もあるが、心の奥底では何故か納得していた。
そう言えば、俺は霊魂や転生輪廻に関しては特に違和感なく受け入れているような気がする。ダークエネルギーと霊界エネルギーの多くが一致しているという理論を聞いた時にも妙に納得していた。こういう事を受け入れられる者がランス搭乗員として適性があるのだろうか。
「ここに留まってもらったのは、このお話をしたかったからなのです。思い出して欲しかった。肉体を持つと、輪廻の記憶を全て忘れてしまうのです」
「それと、霊体の修復もしなくてはいけなかったからな。手足がバラバラになっていたんだぞ」
ウルファと次郎の言葉に納得する。
「肉体に戻ってもしばらくは不自由すると思うが、一ヶ月程度で回復するはずだ。もう帰ってやれ。時計の音が聞こえるだろう」
チクチクチクチク……。
聞こえる。機械時計の音だ。
アイリーンから貰ったスピードマスターの音。
そうか。
俺はこの音を道標として必ず戻ると誓ったんだ。
「分かった。戻るよ」
次郎とウルファは微笑んでいた。
「じゃあ。アイリーンによろしくね」
ウルファが手を振った。その後すぐ、俺の意識は元の肉体に戻っていた。
目を開いた俺にアイリーンが抱きついて来た。
「辰彦!」
涙を流している。
「きっと、きっと帰ってくるって信じてた。時計もちゃんとねじを巻いたわ。聞こえるでしょう」
そう言ってスピードマスターを耳に当てる。
「ああ、聞こえている」
「辰彦」
俺の胸に顔を埋め泣きじゃくるアイリーン。
「遅くなってすまなかった」
「いいの。戻ってきてくれたから」
俺のシャツは涙で濡れてしまった。そこへ艦長と軍医が入ってきた。
「秋山君。良く戻ってきたな。気分はどうかね」
「まあまあです。義体に入っている時よりはずっと気持ちがいい」
「じゃあ診察するよ。時山君、離れてくれるかな」
ハンカチで涙を拭きながらアイリーンが離れる。軍医はテキパキと診察を始めた。
「起きれるかね」
俺は首を横に振る。
「右手を動かして」
動かそうと思うのだが動かない。
「じゃあ左手、右脚、左脚」
全く動かない。
「詳しく検査しなくてはいけないね。それでは……一時間後に迎えに来させる」
アイリーンの顔を見ながら軍医が言う。一応、気を使っているのだろう。
「分りました」
「秋山中尉。作戦の報告だ。当該小惑星は見事に粉砕した。大型の破片が4つ、中型の破片が12、小さいのは数え切れん。大中の破片は全て地球との衝突コースから逸れている。作戦は成功だ。ご苦労だったな。勲章を申請している。しかし、中尉の現状を鑑みて、この作戦は今後実行しないよう提言する。貴様が乗りたいと言っても、絶対に乗せてやらん」
「了解しました」
艦長の言葉に頷く。俺も、ランスにはもう乗るつもりはない。
軍医と艦長は病室から出て行った。
サイドテーブルにある時計のカレンダーを見る。
俺は三日三晩眠っていたようだ。その間、彼女は俺にずっと付き添っていた。ほとんど眠っていないのだろう。パイプ椅子に座り、俺の胸に体を預けたまま眠ってしまった。
霊界で出会った黒人女性のウルファ。彼女の話も聞かせてやらねばなるまい。
体が動かなくなった俺は、もう英雄として活躍できる場所はないと思う。次郎は一ヶ月で回復すると言っていた。しかし、自分の手足が吹き飛ぶのを自分で見ているのだから、その話はすぐに信用できなかった。このまま除隊するとしても、それは運命として受け入れるしかないと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます