愛の終始
長月 音色
囚われの愛
心地よい音
程よい揺れ
何も見えない
何も知らない
ただここがいい
何か聞こえる
ずっと同じ音
ずっとずっと
なんだろう
あぁ、出たい
ここから飛び出したい
…あ、入口だ
また声が聞こえる
早く行かなきゃ
何かにつかまれた
どんどん引きづり出される
怖いよ。助けて。
初めての世界は
とても怖かった
うごめくものや
大きいものばかり
何も分からないから
泣き叫んだ
ただ自分にできる事だから
全力を出した
そのボクを
暗闇の中で聞いた声の主が
包み込んだ
その時知った
愛というものを
ただ好き。私の全て。
手を握られた
おっきいなぁ
いつも見える
高く高く広い
不思議な木の模様
伸ばしても伸ばしても
届かないよ
パパが来た
お腹すいてないよ
便もまだだよ
通じないよね
また泣いちゃうよ
やっと動けるようになったのに
みんなは速くて高い
ボクも上に行きたい
速く歩きたい
よし、壁を掴んで
練習だ
ママとパパ、マンマとアンヨ
それ以外にも話したい
好きってよく聞くけど
どういうことだろ
チュキ
何度も言ってみると
二人は微笑む
…いい言葉だ
幼稚園
やだ。もっともっと
ママに甘えたい
やっとお腹の中から
会えたのに
ずっと愛されたい
でも初めて
自分と同じ人達に
出会えた
大きなランドセル
自慢して、走り回る
バアバとジィジは
優しく笑う
少し変わったのは
ママとパパ
仲が悪いみたい
よく怖い声が
交じりあっている
みんなそうなのかな
知識が増えていく
なんて世界は面白いんだろう
剣のおもちゃは
カッコイイなぁ
隣の女の子に
ちょっと当てたら
大泣きしちゃって
お母さんに叩かれた
その日から
アザが増えていった
中学前
焦りを覚えた
もう甘えられない
子供のフリをできない
大きくなった体に
嫌悪感を抱く
お母さんは優しい
でもよくイライラする
仕事だししょうがない
1人なんて慣れた
今晩もラーメン
テレビを見て浮遊する
そして敏感に足音を感知し
扉が開くまで堅くなる
ボクの名前を呼ばれる度
怒っていないか
ドキドキ
お母さん、お母さん…
部活動で先輩を知った
優しい。そして親とはまた違う
友達とも違う
憧れを抱いた
より多くの人を知った
振る舞いを知った
社会を知った
大体みんなの家族を
知った
だからなのかな
おかしいんだ。
お母さんとお父さんは
金銭の論争を
大声で月に1度する
母は独りで私にいう
家族なんていらない
あの男のせいで
子供なんて足枷
一人だったらこんな生活…
何度も母はボクにいう
弱い僕に
選択肢はないから
全て黙って肯定する
これでいいんだ
翌朝腕に増えている
引っ掻き跡
空を見上げると
幸せだと実感する
やつれたホームレスを
見下ろすと
恵まれていると感じる
鶏や豚や牛の肉を見ると
安心感をおぼえる
私は死んでもいい
ボクはママと家族が好きだ
だから
暴言を吐かれても
『死ね』とは思うな
朝起きると
カッター跡が増えていた
傍から見れば痛々しいだろう
私もそう思っていた
けれども
辛いことがあったら
痛みのおかげで
和らぐものだから
あまり気持ち悪いと
感じないんだ
その痕跡は
いつも袖で隠す
何度も何度も
学校へ行く途中のホームで
飛び込もうと思った
案外怖くは無いもので
全然いける自分に
驚いていたぐらい
けれど、その後の
泣き叫ぶ母の姿が
頭に浮かんでこべりついて
足を止める
家に帰れば
いい匂いがする日だってある
笑顔で抱きしめて
おかえりって微笑む
ママがいる
すきすきすきすきすきすきすきすきすきすき
つらいつらいつらいつらいつらいつらいつらい
くるしいくるしいくるしいくるしいくるしい
ありがとうありがとうありがとうありがとう
愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる
つらいつらいつらいつらいつらいつらいつらい
ボクより先に死なないで
置いていかないで
忘れないで
死んだ後、全てを忘れると思うと怖くて
眠れない日がある
人は初めて愛を知り
最期も愛で締まる
そうできている
なんて残酷なんだろう
神様というものは
そしてなんて重いんだ
愛情というものは
人は生まれながらにして
悲劇の主人公なんだ
愛を知り、奪われるのだから
孤独とは愛を奪われた人のことだろう
ただ何も思わず、一人がいいやつは
独人とでもいっておけ
まだこの世は長い
この不安から
出ることはできないのか
腹の中から出たように
愛の終始 長月 音色 @mameshibapatororu
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