第13話 真実
……。ここはどこだ。俺、何をしてたんだっけ?
俺は何がなんだかわからなかった。なぜ倒れているのか、いつ病院に運ばれたのかも。そして、体を感覚も優れない。指先もうまく動かすことが出来なかった。だが、瞼は指よりも軽い。俺は瞼をゆっくりと開けた。
真っ白な天井だ。
首は動かないため両側を目で確認するが、見えるのは窓と壁。
そして、横にはナースコールらしきものがある。となると、ここは病院だろうか。にしても、何で病院なんかに居るんだ? 俺は確か、レリグさんと話していて……。首が……。そうだ。首に電撃みたいな……スタンガン? それにしても、レリグさんは無事だっただろうか?
「お目覚めですか?」
ふと声がかかったのでそちらを見ると、いたのは看護師だ。
「ええ、病院ですか? いえ、それより何があったのか知りたいんですけど……」
見るからに病院なのは明白。訂正し、それよりも何があったのかを知らなければならない。
「……ここは王国宮内庁付属病院です」
訂正したにも関わらず、看護師は病院の名前を告げた。普通の病院ではないからだろう。
そして、何があったのかを知りたかった俺もさすがに動揺した。なぜ宮内庁病院などにいるのかと。そもそも、宮内庁病院は一般人は入れない。
「それよりもリヴェノさん。あなたに会いたいという方がいらっしゃいます」
誰だろうか?
そんなことを考える暇もなく見覚えのある影が俺の視界に入った。
だが、おかしい。なぜあんな人がこの場にいて、俺に会いたいのか。
「宰相……!?」
王国の宰相だ。前回とは違い、パンケーキのことなど頭になく賢そうに見えるほどの凛々しい顔だった。
前回は恨みが募り過ぎて勝手に顔を歪曲でもしていたのだろう。
「久しぶりだな。リヴェノ元王国魔術会議会員」
宰相は俺の寝ているベッドに近づいてきた。
一体何をしに来たのだろうか。
俺は思わず顔を背けてしまう。
「私が憎いか?」
「……いえ。私の研究はその……。危険ですからね」
癪に障っていたとはいえ、俺の研究は危険なのだ。任命拒否されても仕方ない。
「そうか。おまえはまだまともなのだな。来い! 任命拒否の理由、教えてやろう」
その言葉を聞いた途端、俺の心臓が跳ねるように動いた気がした。
どういうことだろうか? あるいは、何かの罠?
さまざまなことを思案してみるも、宰相の前に居るという緊張具合からなかなか案が出ない。そして、有無を言わさず宰相に連れて行かれた。そもそも俺はスタンガンで気絶していただけなので、すぐにでも帰っていいという状態だった。だが、無理にでも引き合わすために寝かせていたのだという。
宮内庁病院を出ると、黒塗りの公用車に乗り込む。そして、向かった先は宰相官邸。そのまま官邸の中を歩く。
「ここだ」
そこは、宰相鑑定の一室だった。宰相が扉を開けると、俺も中に入る。部屋の中は小さく、書架が置いてあるのみだ。そして、宰相はその書架から一枚の紙を取り出すと、俺に渡した。
「これは王国破壊行動防止法に基づいて保安庁が調査した危険人物・団体リストの一部だ」
俺は戦々恐々しながらその紙を受け取った。
「え……?」
そこには、レリグさん、ジェイクさん、アトラさんの三名の記述及び新世界創生会の名前があった。
『新世界創生会は、一見するとテレビ局やパンケーキショップを経営する団体である。しかし、実情は魔獣飼育施設を有しており、生体実験を常日頃から行っている。事実、アバンダにて発生した魔獣事件も、当施設で飼育されていた魔獣を意図的に放って被害状況の確認などを行っている』
……。嘘だと信じたかった。だが、仮にも目の前に居るのは宰相。本当ということなのだろう。
「それが真実だ。そして、この三人はおまえの技術を欲しがっていた。渡さなかったとしても奪いに来る可能性だってある。当時はまだ証拠がなかったため、警察は動けない。技術が奪われずおまえの安全を考えると、魔術会議に任命拒否して資金源を絶たせるしか方法がなかった。許せ」
俺が書類を見つめ握りしめており、聞いていないかもしれないのに宰相は状況を説明した。
「レリグさんは?」
「逮捕した」
「そうですか……」
ああそうか。ま、あの場に救急隊員が来れたなら警察官だって来れるよね。
今まで付き合いのあったレリグさんが悪者で逮捕されたと言われても、正直どうすればいいのかわかなかった。
「それでだ、後の二人を──」
「宰相! お話中申し訳ありません。お伝えせねばならないことが」
扉が勢いよく開かれ黒スーツの男が飛び出すように入ってくる。そして、俺たちの会話を遮るのを覚悟し述べた。
「何事だ!?」
勢いよく宰相は男の方へ振り向いた。
「新世界創生会の本部を押さえたものの、アトラとフラクタの二名は逃亡。魔獣飼育施設に立てこもっています」
「魔獣飼育施設にも警察を出したがそれはどうなった?」
「……。失敗しました」
男は宰相から目を逸らしつつ告げた。
「まずいことになったな……」
どうするべきかを本気で悩んでいる辺り、やはり宰相という感じがする。
そんな宰相はぶつぶつと呟き終わると俺の方を向いた。
「リヴェノ元会員。今まで本当に済まなかった。この補償はいずれしよう。バックカントの件も上から働きかけてどうにかしよう。だから頼みがある。もう一度あの兵器を作ってくれないか?」
俺はどうすべきなのか。あの装置は完全に封印したはずだ。作りたくもないし、使われるのも御免だ。
「最悪の場合、数十匹の魔獣が逃げ出す。どうなるかは君が一番理解しているはずだ……」
……。
「その施設があるのは……。バックカントの郊外だ」
宰相は俺に作らせるためにどんどん情報を述べる。だが、その情報は狙っていたかのように俺と関係のあるものごとだ。
はっきり言って卑怯だった。
「わかりました」
知らぬ知らぬの内に、俺の口は動いていた。
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