第12話 カルロスの記憶(カルロス視点)
「お土産の冷凍パンケーキ入れた?」
「あ、忘れてた!」
今から十六年前。私は妻と一緒に身支度をしていた。それは辺境の地、アバンダに行くための準備だった。何でも、妻の両親はアバンダに住んでいるらしく、子どもが生まれたことの報告。それともう一つ用事がある。
「それにしても、アバンダって雪降るらしいけど大丈夫かな」
私は雪が降らない王都の生まれだ。そして、驚くことに妻も雪が降らない地域の生まれらしい。どういうことかと聞いてみたことがある。昔はもっと南に住んでいたらしいが、妻が中高一貫校の寮に入ったらしい。そして、それと同時に両親はアバンダへと移民したらしい。
それ以降、ちょくちょくアバンダへと通ってはいたが夏の時期だけだ。冬の時期に実家に帰省するのは初めてだった。
「うーん。どうだろう。大丈夫じゃない?」
雪なんて、ただの水。どうってことはないだろうと、この時の私たちは思っていたのだ。
実際、王都を出たばかりの頃は雨すら降る気配はなかった。だが、問題は北方地域に入ってからだった。北方地域が王都から近いにも関わらず人が少ない理由。それは王都から向かおうものなら広大な山脈を抜けなければならないのだ。
「ねぇ、なんだか曇ってきてない?」
山脈に入った頃には、黒々とした雲が近づいていた。また、山脈に入っているともあってすぐに雪は降り始めた。
そして、山脈を脱した私たちは続いてアバンダへと向かう。
アバンダは海岸から続く緩やかな高地の上にあり、ある程度標高がある。そして、高い山の麓にある。剰え西岸には温かい海流が流れているという非常に雪雲が発達しやすい地域だった。
アバンダの行政区内に入れたものの、視界は真っ白で何も見えやしないのだ。そして、当然ながら気温も低い。後部座席で一人で座っている子どものことを一度心配しだすと運転中も気になって、運転が集中できなかった。
だからだろう。真っ白に霞む視界の中、崖に気が付かなかった。
私たちの車は崖から転落。だが、幸いにも木々の枝に引っかかり私と妻は怪我で済んだ。
「うぅ。大丈夫か?」
私は痛む体を無理に起こし、妻と子どもの様子を確認した。子どもの方は幸いにもチャイルドシートが守ってくれたようで傷はない。だが、安堵してはいられなかった。
落ちた影響で車は動かなかった。そして、車の中にいてもこの寒さだ。凍死すら考えられた。自然の脅威を軽視していた私が憎い。
私は覚悟を決め外に出る。
……寒い。いや、寒いという言葉では語り尽くせない。寒い地域だととてつもなく寒いことを表す表現があるというが、それなら納得だ。
途端に手足は悴み、物を掴むことすら難しかった。必死に動かない車を掴みつつ慎重に先を見渡す。そして、何やら光が見えた様な気がした。だが、その光はハイビームの様な機械的なものではない。身の毛がよだつ光だった。
何かが起きる。
そう感じたのだ。私は咄嗟に怪しい光の前に飛び出した。そして私が見たもの。それは──。
魔獣だ。
手足が悴んでいる私に、魔法を使う猶予など毛頭ない。咄嗟に吹き飛ばされ、再び崖から落とされた。だが、前回と違いクッションになるものがないのだ。そのまま地面に激突──。
そして、私は気がついたときには病床の上だった。回想ではない。感覚もある。
「はぁ……はぁ……。思い出せたのか……」
記憶が混乱しているが、とにかく記憶は思い出せたようだ。だが、そうなるとミレーラはやはり──。
「私の子……か?」
だが、今更引き取ってどうなる? ミレーラはもう18だ。独り立ちする頃だ。ミレーラにとっての幸せはどっちだ? 取り敢えず、リヴェノくんやら院長に相談だろう。そう言えばリヴェノって記憶喪失以前にもどこかで……あ!
「ミレーラのことかい?」
その声は院長だった。彼女は机に造花を飾っている。
「……ああ。院長はなぜここに」
「子ども達は繊細だからね。いろいろとパニックになっちゃったんだよ。そしてそのついでさ」
「彼らは……大丈夫だったんですか? 後、施設は無事でしたか」
「あんたのおかげで、何とか足止めできて魔獣は倒せたよ。まあ、リヴェノの奴が壮大に施設を破壊し尽くしやがって。子ども達の受け入れ場所を探すのは老体には堪えるよ」
「そうでしたか。……。ミレーラのことでお話があります。院長、私、リヴェノくん、ミレーラの四人でお話を──」
「そりゃ無理だよ」
私が言い終わるよりも前に、院長はそう断定した。
「なぜですか?」
「リヴェノの奴は……逮捕されちまった」
院長は名残惜しそうにいった。何だかんだでお世話になっていたのだろう。
だが、問題は逮捕という事実だ。
「な、何があったんですか?」
「言った通りさ。魔獣を倒そうとしたのか壮大に周辺家屋もぶっ壊したからね」
……。逮捕? リヴェノくんが? 確かに、院長通りの話だったら少なからず非はリヴェノくんにあるかもしれない。でも、彼も当事者だ。話し合いに参加させなければ。
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