第11話 再びの王都

 俺が不起訴処分となり釈放になった最大の理由、それは情状酌量があったわけではなくこの弁護士によるものだった。そして、この弁護士事務所への依頼主にして運営元。それが新興宗教団体『新世界創生会』だった。そして、始祖レリグさんが会いたいと申しているらしい。


「わかった。行きましょう」


 特に断る理由もなかった。こうしてお世話になった以上、向こうが会いたいというのであれば会うしかない。


「それにしても、なぜ俺を助けてくれたんでしょうか」


 弁護士は「確か──」と言いながら思い出しながら語ってくれた。


「何でも、お願いしたい事があると述べていました。ですが、私は何分下っ端故に詳しいことを知らないのです。申し訳ありません」


「いえいえ」


 俺は警察署の前に止まっている弁護士の高級自動車に乗り込むと、そのまま王都へ向かって走り出した。


 王都からバックカントまでは結構距離がある。そのため、道中サービスエリアなどに寄りつつ走り続けること数時間。王都へと入った。


「到着いたしました」


 レリグさんが指定した場所、それは王都にあるパンケーキショップであった。しかも、任命拒否された当日にお別れをしたのと同じ店であった。


 偶然だろうか。いや、恐らくは意図的だろう。


「店員に会長の連れだとお申し付けください。それでは失礼いたします」


 弁護士は深々と俺に礼をするとそのまま高級自動車を乗り回し帰っていった。


 弁護士も大変なのだろう。


 俺はパンケーキショップに入り、直様出入り口付近に屯している店員を見つけた。やる気がなさそうだ。


「あのー。レリグ会長とのご予定が入っているんですけど」


 自信なさげに店員に告げると、店員は手のひらを返した様に俺への扱いが変わった。


「も、申し訳ございません。直ちに案内いたします。こちらへご案内ください」


 店員は突如として声が上擦り、ロボットの様にたどたどしい動きをしながら特別な部屋へと案内してくれた。

 レリグ会長の名を出しただけであの豹変、少なからずこのパンケーキショップに影響力があるのだろうか。


 そんなことを考えつつ俺はレリグさんが居るとされる部屋に三回ノックをした。


「リヴェノです」


「おお、来てくれたか。リヴェノくん。ぜひ入ってくれ」


「それでは、失礼します……」


 いざ部屋に入るとなるとわずかながら緊張してしまった。任命拒否直後は何事もなかったのにどうしてだろうか。そして、すぐに答えは思いついた。


 俺と三人、最初は同じだったのに変わりすぎたのだ。俺はスローライフを、そしてもう三人は研究家兼反政府活動家と住む世界がすっかり変わってしまったのだ。


 俺は緊張しつつも扉を開けた。そこには色とりどりのパンケーキが並べられており、パンケーキが置かれている机を囲む椅子にレリグさんは和やかそうに座っていた。


「お久しぶりです。レリグさん」


 俺は軽く会釈をし、レリグさんと対面の椅子に座った。


「ああ、お久しぶり。パンケーキは自由に食べていってくれ。ところでレオくんは新しい生活、大丈夫かい?」


「ええ、おかげさまで。幸せに暮らしています」


「そうか、それならよかった。さて──」


 レリグさんは文章を言い切る前に鞄から一枚の紙を取り出した。


「本題に入ろうか」


 レリグさんの目つきが神妙なものになる。


 やはり来たか。わざわざ俺を呼ぶなんて、その本題となんだろうか。


 俺は固唾を呑みながらレリグさんの動向を見守った。


「君の噂を聞いたよ。何でも、バックカントで魔獣を倒すためにすごい兵器を使ったそうじゃないか。そこで、提案だ。その兵器の作り方及び全ての権利を売ってほしい」


 レリグさんは先程の紙を出した。手に取り確認する。それは契約書であり、何とも堅苦しい書類だ。詳しく確認すると、対価として出されたのは凄まじい額であった。それはもうバックカントの被害を全て弁償できそうな程。


 さて、どうするべきか。俺としては売るべきではないと思っているが、魔獣の駆除に使われるというのであれば吝かではない。


「ちなみに、何に使うのか聞いても?」


「そりゃ、勿論魔獣の駆除に使う事以外考えられるかい?」


 レリグさんは事前に言われるのを想定していたかのようにすぐに答えた。さも当たり前の様に話すが、どこか胡散臭い部分があった。


 もしこれが任命拒否された直後だったら何の疑いもなく売っていただろう。だが、あの装置は危険すぎた。魔獣を倒すために使ったとはいえ、一歩間違えれば小さな村なら一瞬で破壊してしまうほどのものだ。留置所に入れられて、頭が冷えて漸くわかったのだ。あれを使うべきではないと。


「残念ですが、お断りさせていただきます」


 俺は何やら不穏な気配を感じ、今すぐにでも帰ろうと席を立つ。


「ほう? 対価が少なかったかい? もう少しくらいなら上乗せできるかもしれないけど」


 レリグさんはそんなに欲しいのか、どうにか俺を引き留めようと必死だ。


「いえ、そういうわけではなく──」


 レリグさんは任命拒否直後はわりとあっさりと認めてくれた気がしたが、どうしても欲しいのだろう。俺はあの兵器の危険性について改めて説得しようとレリグさんの方を向いた。だが、その直後、首に電撃でも走ったかのような激痛がし視界がぼやけていった。

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