第8話 嵐の前の静けさ
「まずは最初のニュースです。内乱が続くアナーキ国では各国の軍事介入が相次ぎ、覇権国家を巡る国同士の代理戦争と化しています。介入している国は十カ国以上にも及び、死者は十万人を超え世界大戦の様相を呈しています。次のニュースです。王国魔術会議任命拒否問題を巡り、国会前では日夜反政府でもが行われています」
俺がテレビをつけると、どうやらニュース番組の時間だった。それも、ちょうど始まったばかりのようである。アナウンサーは淡々と最初のニュースについて述べると、続いて任命拒否問題に述べる。だが、前のニュースとは一転して強く語りかけるように告げると、画面が王国の国会前に移り変わった。
「政府の横暴を許すな!」
テレビ画面には今となっては懐かしいアトラさんやフラクタさん、レリグさんが映っていた。三人は他のデモ参加者と組んで、パンケーキの上からばつ印が描かれている幟を持って歩いていた。
続いて、参加者のインタビューに入りそれが終わると任命拒否問題の概要説明に入った。
いやいや最初のニュース、短くない? 仮にも死者十万人以上で世界大戦の様相なんでしょ? 二文で終わらせちゃだめじゃない?
だがそのテレビはなりふり構わず問題点などを上げて、専門家が解説し始めるも中身は全部宰相の行動、性格、人格に至るまでを全否定する内容であった。
何にも解説できてねぇ。というか、アナーキ国の内乱にもっと尺分けてやりなよ……。
俺は呆れた様子でパンケーキを食べながら見ていが、さすがにここまで宰相を全否定されるのを見てて愉快と思えるほど俺は曲がっていない。任命拒否された直後は内心、宰相をこっぴどく非難していたような気もしたが、それだけこの生活で心が落ち着いたということだろう。
俺はコーヒーを飲もうとコーヒーが入ったカップを口に近づけるが、突如取っ手の部分が取れコーヒーがパンケーキにかかる。
子どもたちに舐められない様に練習して、せっかく今日は上手に出来たのに……。
パンケーキの半分以上が黒く染まるも、もったいないので口に運ぶ。
……。苦い。取っ手は取れるし、コーヒーはかかるし、今日はついてないな。何事も起こらないといいんだが……。
妙な胸騒ぎがしつつ、俺はパンケーキを食べ終えると外に出た。新しいカップを購入するのが目的だが、気分転換も兼ねている。
そして、街中で新しいカップを購入し帰路についている時、見覚えのある姿が建物の中から出てきた。カルロスさんだった。俺はその建物を見るが、図書館だ。
おそらく記録か何か調べていたのだろう。
「ああ、リヴェノくんか」
カルロスさんの方もこちらに気づいたようだった。せっかくなので声を掛けてみる。
「何かわかりました?」
「いや、記録を調べてみたけど何にも残っていないよ」
カルロスさんにはクマができており、元気がない。一日中調べても調べても手がかりが何も出ないのだ。仕方あるまい。
「ところで、何か食べるもの持っていないかい? 何も食べてなくてね……」
「パンケーキがありますよ」
「すまない、いただくとするよ」
俺たちは近所の公園にあるベンチに腰掛けた。そして、俺は朝食の残りのパンケーキをカルロスさんに分けた。カルロスさんはパンケーキを食べるが、味わって食べているというよりかは空腹を満たすために食べているという感じだった。
カルロスさんは食べ終わると、ため息をついた。
「すまないね、リヴェノくん。君たちにはいろいろ迷惑を掛けたろう」
「いえいえ」
カルロスさんの姿が、昔の俺の様に見えた。俺が研究一筋だった頃と同様に、彼もまた自身の謎を追い求めている。俺も会員だった頃は、こんな風に自分の知らないところで他人に迷惑を掛けていたのだろうか? そう思うと俺はカルロスさんを責め立てられなかった。
「そろそろ、この街をたとうかな」
「え?」
驚く俺をよそにカルロスさんは語った。
「君たちばかりに迷惑は掛けられないよ。それに、──私には新しい彼女がいるんだ」
これは責めるべきことなのか、俺にはわからない。そもそも、あの写真は一緒に写ってたというだけなのだ。そういう関係であったとまでは断定できない。
「なんだかなぁ。私ってなぜか自慢じゃないけど言い寄られる事が多くてね。もしかしたら、記憶喪失になる以前も同じだったのかな……。それに、手がかりなんてもう探し尽くしたよ」
カルロスさんは昔を思いしのぶ様に語った。
ここは俺が引き止めるべきだろうか? だが、これ以上手がかりなんてないのだ。俺がしてやれることなんて何にもない。
「……」
俺は返す言葉を悩んでいた。
「……。それじゃ。今までありがとう、レオくん」
そう言い残すと、カルロスさんはとぼとぼと歩きながら公園の出口に向かって行った。引き止める術ないため、俺も帰ろうと立ち上がる。だが、その時公園に設置された防災無線からノイズが聞こえた。
「町民の皆様に緊急のお知らせです。バックカントにて、魔獣が出没いたしました。町民の皆様は直ちに命を守る様行動してください」
「……は?」
俺はただ呆然とし、衝撃の事実を聞いていた。拳を強く握りしめ、歯を食いしばる。
二度とあんなことは起こってはいけない。そして、魔獣は殺さなくてはならない──。
俺は急いで家に向かって走り出した。だが、町には魔獣出没によりパニックを起こした人たちがごった返しており走ろうにも人が邪魔だ。俺はこうした人混みから無理にでも通り抜け、自宅が見えてくる。
あれを使えば、魔獣の被害もどうにかなる。
俺は一目散に家までたどり着く。そして、家の収納を片っ端から開けて中を確認する。だが、見つからない。出てくるのは小麦粉やらベーキングパウダーやらのパンケーキの材料ばかりだ。
ここに来て俺は気がついた。すっかりこの平和な生活に慣れてしまったのだと。
「短かったな……」
この平和な生活もすぐに終わりだ。この兵器を使えば俺は平和という言葉から嫌われることになるのだから。
……。せめてこの場くらい、日常の余韻に浸らせてくれ……。
俺は普段なら願わないであろう神にすら祈る。だが、祈り始めた瞬間に近隣から爆発でもあったのかのような轟音が飛び出る。
……まさか。
俺は急いであれを装着すると、魔獣の居る中心部へと戻った。
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