喪失
ミステリー好きな彼の為に
いろいろな話を収集する。
まあ、本職だからと言われてしまえば、
それはぐうの音も出ないのだが、、
彼は興味津々に私の話を聞いてくれる。
それが私にとっての幸せだった。
彼はあまり体が強い方では無かった。
出逢いは偶然とは言ったものだ、、
古い病院に出ると言われている霊を
記事にまとめる為に看護婦等に、
インタビューした。
だが、勿論煙たがられ、断られた。
たまたま病院の屋上で、
私生活も上手くいってなかった私は、
流れる雲をただただぼんやりと眺めた。
風でバックが落ちた音がしたが、
そんなこと、どうでも良かった。
「このまま私も流れてゆけたらな、、」
そんな独り言をポツリと呟いた。
そしたら不意に返答が返ってきた。
「でもきっと自分の好きな場所には行けないよ。」
目線を下ろすと散らばったバックの中身をしまい、
バックを私へと差し出す青年が居た。
「ありがとう。」
私は再び空を見つめる。
時間だけが流れた。
青年も同じく空を見上げた。
そんな時間がたまたま重なった。
私は就職して初めて記事を任された。
責任感と言うものだろうか、
引くに引けず、何度も通った。
その度にいろいろ嫌な思いも抱え、
病院のこの場所で雲に流す事を覚えた。
青年は私と同じ様に一緒に空を見上げる。
きっと彼と私では雲に思う感情も違うのだろう。
彼は雲に何を思うのか、、
不意にそんなことを考える様になっていた頃には、
既に彼の事を心の何処かで想って居たのだろう、、
季節が変わり私もそれなりに記者として
ある程度仕事がこなせるようになったが、
彼は日に日に体の機能が衰え、屋上で一緒に
雲を眺める事すらも出来なくなっていった。
私は彼を勇気付ける為に、仕事の合間に通った。
医者からは彼の病気からしてみれば、
随分と状態が良く、それも私のおかげだと、
そう良いように言われたが、同時に
彼がまた普通に歩ける事を否定されている様で、
全然嬉しくもなく、誇れる事も無かった。
誰かの為にやっている事は結局、
自分の中の押し付けがましい行為でしかなく、
他人からしてみればありがた迷惑なのかも知れない。
そんなふうにも感じるようになって行った。
そうすると当然の様に彼の所へ行く時間も、
そんな感情すらも、日に日に薄れた。
今にして思えば、後悔でしかなく、
きっと彼の変わらない未来から私は逃げていた。
後悔は遅いと言うが、そうだろう。
私はあのURLからこの世界に飛ばされ、
何とか生きながらえたが、もう。
少しずつ自分が分からなくなってきている。
彼の事も少しずつ私の中から消えていく。
『チョウダイ、、チョウダイ、、』
彼の記憶を彼女が私の中から奪って行く。
どうかお願い
誰でも良いからこの日記だけでも、
彼に渡してあげて下さい、、
きっと彼は喜んでくれるから、、
大好きよ、、
七堺 影神 @kagegami
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