第8話 風紀委員はあの子の妹!?②

「はい、お茶……」


「ありがとう」


 『藤宮優香(ふじみやゆうか)』。あたしは彼女を家の居間へとあげて席に座らせていた。そしてお茶を出して、あたしも向かい合わせになるように座る。その後、横にメイドさんが座った。


「………」


「………」


 座ってから気まずくなって声が出せない。藤宮優香(ふじみやゆうか)もしかめっ面で黙っている。しかしそんな空気に耐え切れずあたしは声を出した。


「あ、あのさ、さっきお姉ちゃんって言った? どういうこと? 苗字違うけど姉妹なの?」


「ずぅ……」


 あたしが問いをかけると、彼女はお茶を少し飲む。そして湯呑を置くと口を開いた。


「単に私が小さい頃から呼んでいるだけです。お姉ちゃんとは幼馴染だったもので」


「え!?」


 そう言われて九条さんの方に振り向くと、彼女は少し申し訳なさそうに首を頷いた。


「まぁあなたを混乱させちゃったのは申し訳ないけど、私が気になっているのは今はお姉ちゃん、あなたです」


 あたしが色々と驚いていると、続け様に藤宮優香(ふじみやゆうか)が九条さんを問い詰めていた。


「つい先日、お姉ちゃんの両親が海外にいくって聞いた。で、お姉ちゃんは日本に残るって聞いてましたけど、どこかに泊めてもらうって言うだけでだけでどこにいくか私に教えてくれなかった」


 少し震え声で話す彼女に、流石のメイドさんもため息を吐くと閉じていた口を開いた。


「別にいいでしょ。自分の事は自分でやらないといけないし」


 すると以外にも強気な返し。藤宮優香(ふじみやゆうか)はそれにちょっと気押されていた。あたしも若干その圧に押されそうになり、ごまかしのためにお茶を飲む。そして彼女はまた口を大きく開いて反論する。


「まぁ、確かにそうですけど、まさかここに来ているなんて思いませんよ!! だってこのメッセージはなんですか!!?」


 彼女が突き出したのは、あたしが置き忘れて携帯。そしてロックがかかっているホーム画面上に映っていたのはLineアプリのメッセージ通知だった。そして指を指して九条さんに問い詰める。


「勝手に見ちゃって高宮さんには申し訳なかったけど、これはなんですか!? 『お嬢様、夕食はカレーですよ❤』って!! 混乱しちゃいましたよ!! お嬢様ってなんですか!? お姉ちゃん!!」


「ぶほぉおっ!!!?」


 その瞬間、あたしは口に含んでいたお茶を噴き出してしまった。


「ごほごほ、ちょ、それみたの!?」


 辺りを水浸しにしてしまい、急いでタオルで辺りを拭く。そしてある程度きれいにすると、すぐさま携帯を取り上げた。


「ちょ、何勝手に見てんの!?」


 そしてそのホーム画面を見て、本当にその通知が来ているのが見えて、本当に肝が冷えてしまう。


「そこは悪かったと思ってます。でも通知画面が見えてしまったの」


 確かにこの人の性格上絶対に中身を開こうとしないと思うけど、通知画面は流石に流石に防ぎようがない。なんともマヌケな話だ。


「この文章もそうだけど、お姉ちゃんのその恰好もいったい何なの!? メ。メイドさんって言うのかしら? 一体ここで何をしてるの!?」


 そして風紀委員の彼女がますますヒートアップしてくる。


「いや、あのそのね……」


 何とか誤魔かそうにも焦ってしどろもどろになてしまう。でもどうやって誤魔化したらいいのか、家にメイドさんがいるの見られている時点で言い逃れできないような気がする。


 しかしそんなあたしの様子を横から見ていた九条さんは、逆に焦ることもなく彼女の質問に素直に答え始めた。


「ここで、高宮有紗お嬢様のメイドをしているわ。ここの家に住まわしてもらっている代わりにね」


「ちょ!?」


 何も隠しもしないその言葉にあたしは思い切り驚いてしまった。


「流石に隠し切れませんよ、お嬢様。ここは変にごまかすよりも素直になりましょう」


「え、まぁそうだねぇ」


 驚きはしたが、言われてみればそうだ。無理なのは明らかであった。でもそんなことを言われてこの風紀委員はなんて言ってくるのだろうか。恐る恐る彼女の顔に視線を向けた。


「そ、そんなこと許容できるわけがないでしょ!!」


 するとバンっと両手をテーブルに叩きつけるとさらに大声を出してきた。最悪だ。


「メイド? お嬢様? 訳が分かりません!! 住むところがないのなら私の所に来ればいいじゃないですか!! なんで頼ってくれないの!! 私の所に!!」


 声も荒げると同時に少し涙交じりに彼女は言葉を重ねる。どうやら藤宮優香(ふじみやゆうか)はこのメイドさんの事を慕っているようだ。そんな相手が問題児のあたしをお嬢様と呼んで同居していたら怒り出すのは無理もないかも。


 だけどそんな彼女に対して、メイドさんは両手で彼女の頬をパンっと挟んだ。


「う、うえ!?」


「優香ちゃん、これはあたしが決めたこと。だからと言ってあなたをないがしろにはしていないの。変なプライドかもしれないけど妹みたいな幼馴染の優香ちゃんに負担なんか掛けたくないじゃない? だからこうしたの。ごめんね、こんなお姉ちゃんで」


 そしてなんと軽く、おでこにメイドさんはキスしていた。


「うえ!?」


「お、お姉ちゃん!!?」


 思わずあたし、そして当の本人もびっくりしていた。こんな簡単にキスしちゃうなんて。それを見てなぜかバクバクと鼓動が高まる。


「あ、もうこんな時間。早く帰らないとね、さ、鞄もって……」


「あ、う、うん……」


 その上でさっきまでの威勢はどこに行ったのか、藤宮優香(ふじみやゆうか)は顔を真っ赤にして、その上でなにか上の空になっていた。


 そしてメイドさんにされるがままに、そそくさと帰る準備を始める。


「優香ちゃん。わざわざありがとね」


「あ❤」


 そのまま彼女が玄関まで行くと、メイドさんは声をかけながら今度は頭をなでている。するとさらに彼女の顔が真っ赤になっていくのが分かった。


「じゃあね」


「う、うんじゃあね」


 そのまま扉を締められて、風紀委員の藤宮優香(ふじみやゆうか)は帰っていった。そして足音も完全に聞こえなくなると、メイドさんはこちらを振り向いた。


「お見苦しい所を見せてしまいました。優香ちゃんは昔から本当に心配症なんですよ。誰かと一緒いてもすぐに怒るし、大変なんですよ」


「そ、そうなんだ」


「今回の居候の件も、優香ちゃんに言うとどうなるかわかったもんじゃありませんしね、ふふ。慕ってくれるのもありがたいですが、なんであそこまで来るのが未だに分からないんですよ。でもあんな感じでおでこにキスをしてあげるといっつもおとなしくなるのでやっちゃいます」


「あ、あぁ……」


 メイドさんの説明を聞き、あたしはなんとなく察してく。


「そういえばご飯まだでしたよね。すぐに作ります。時間がかかりますので、お嬢様は先にお風呂へどうぞ」


 あぁ、この人。


「すっごい、全く無自覚なんだ」


 あたしへの好悪は明確なのに、自分への好意に気が付かない。ある意味もっとも厄介な性格だ。


 とひどく落胆するのであった。 

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メイドさんはギャルがお好き!! フィオネ @kuon-yuto

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