第6話 二人のお買い物②
「こっちの通りはフードコート、でこっちは雑貨屋本屋さん。八百屋さんとかはもっと奥だよ」
「へぇ、色々あるんですね。すごい大きな商店街でびっくりしましたよ」
あたしは偶然出会ったメイドさんとの話し合いの後、商店街の中を歩いていた。メイドさんが言うように確かにここの商店街は広い。いくつかの通りが大規模な商店街を作り出しており、デパートにも匹敵する店の数である。
そして種類も豊富で、今あたしが言ったような店もずらりと並んでいる。だが今日の目的はそこじゃない。欲しいのは食材である。なのであたしはその場所まで歩き、そして食材コーナーに来ていた。
「お嬢様、あそこに新鮮そうな魚がありますよ」
「ホントだ。そう言えば最近お肉続きだった気もするし、魚もいいかも」
そしてたどり着いた先で、二人ともまず美味しそうなお魚に目が付いた。そしてさっそくそこにいるおっちゃんに声をかけた。
「あ、おっちゃん。どもども、お魚買いに来たけど、オススメない?」
「おぉ、有紗ちゃん。相変わらずかわいいね、へへへ」
「おっちゃん!! 見知った真柄だからそんな変な笑い方だとセクハラ的に取られちゃうよ」
「おいおいおい、そりゃまずいな。値引きするから勘弁してくれよ」
「ありがとおっちゃん。儲け儲け」
「全く有紗ちゃんには敵わないね」
そして店のおっちゃんと他愛もない会話をして笑いながら、あたしは魚を選び始めた。魚屋さんなので、もちろんいろんな魚が置いてあるわけだがどれも美味しそうだ。
しかしながらおっちゃんは横にいる気にして選んでいるあたしに声をかけてきた。
「そう言えば有紗ちゃん、このべっぴんさんはだれだい? あまり見かけないけど」
そうするとメイドさんは少しびくっとなって緊張しながらもおっちゃんに言葉を返していた。
「はい、九条朱音(くじょうあかね)といいます。近くの大学に通っている、えぇっと今はお嬢……」
しかし何かやばさを感じたあたしはすぐにメイドさんの口を塞いだ。そしてすぐさま弁解した。
「ええぇとこの人はあたしの親戚なの。ちょっとばったり会って買い物に付き合ってもらっていて」
「へぇ、そうなのかい。なんか込み入った事情もありそうだね」
「何でもないって!!」
あたしの言い訳が怪しすぎたのか、おっちゃんは疑いの目を向ける。だけどすぐに顔は笑顔に戻った。
「まぁプライベートに踏み込むのは野暮だ。俺は美味しい魚を提供するだけ、ささ、今日は言ったやつはこれだ。鮮度がいいうちに買っていきな」
「あ、あんがとおっちゃん」
おっちゃんはそこまで追求して来ず、そのまま魚を売ってくれた。あたしはドギマギ、メイドさんはあたふたしながらそこを後にした。
「あのあんたね!! メイドさんとか言わなくていいから!! なんかいろいろ誤解されちゃうでしょ!!」
「す、すいません。ついつい」
全くこの人といると本当にいろんな意味で気が休まらない。でも悪い気はしない。なんでかよく分からないけど。
「次はしっかりしてよね」
「は、はい!!」
あたしは少しきつめに言いつけると、メイドさんはちょっとシュンとする。そしてまた二人で歩き出したのであった。
だけど行く先々で、その異質さというかきれいすぎる事ばかり言われて気が休まらなかった。まぁギャルとメイドさんなんてありえない組み合わせだしね。
★★★★★★★★★★
「はぁ、なんか買い物行く前より疲れたぁ」
「色々と迷惑かけてすいません。お荷物はお持ちしますよ」
「うん、あんがと」
大体40分くらいだろうか。そのくらい経ったときにようやく必要最低限の買い物が終わっていた。いっぱい買ったのでなかなか大変だったが、それ以上に絡まれ疲れた。やれやれである。
買い物袋は持ってきてないので、学校用の鞄に詰め込んでいる。中身はほとんど入ってないので大丈夫。先生的には大丈夫じゃないけど、まぁ気にしたら負けだ。そしてそれをメイドさんに預けていた。
「さて帰ろっか。ご飯作らないとだしね」
そして前を向きながらそんな言葉をかけたのだが、なぜか返事が返ってこなかった。どうしたのかとメイドさんの方向を見ると、彼女はクレーンゲームの方を向いていた。
さらに視線を追うと、そこには掌から少しはみ出るくらいの大きさの『猫のぬいぐるみ』が商品として並べられていた。
「もしかしてあれ欲しいの?」
「え、いえ。ついかわいくって」
「ふぅん……」
あたしは淡々と返すとそのままクレーンゲーム前へと向かった。
「ちょ、お嬢様!?」
「欲しいんでしょ? 持ってもらってるし、それくらいあげるよ」
「お嬢様、クレーンゲームって難しんですよ? お金がかかって……」
「大丈夫、大丈夫。うまくやれば500円もかからないよ」
あたしはメイドさんの制止を聞かず、ちゃっちゃとゲームを始めた。クレーンゲームなんて友達と死ぬほどやった事がある。女子学生の遊び場としては結構定番だしね。そしてあたしは数回の挑戦の末、あっさりと猫のぬいぐるみを取ることに成功した。
「700円かかったかぁ。まぁそれくらいは誤差かな? 後で帰ったら手渡すね」
そして少しはにかみながらメイドさんに見せつけた。すると彼女は頬を微かに赤くして、そしてすごくかわいく微笑んだ。
「お嬢さま、あ、ありがとうございます」
「うっ」
やっぱり笑顔が眩しい。まぁ今回は不意じゃなかっただけましだけど。
「さ、行くよ。魚とか腐っちゃう」
「はい」
あたしは気恥ずかしくなりながら、早足で歩き出した。
なぜ急にこのメイドさんに取ってあげようと思ったのか分からない。ただどうしてかそうしたいと思ってしまった。もしかしたら子供っぽい側面を見てほおっておけなくなったのかも知れない。なんだが妹みたいだ。年上なのに。
あたしはよく分からない感情を抱えながら、家へと向かうのであった。
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